間章 2
視点 フィオナ・ルーベル
目が覚めると、私の首と手足は重たい鎖に繋がれていた。
鉄格子に囲まれた空間。
どうやら、荷馬車のようだ。
ああ、私にはどうやら奴隷の運命が待っているようだ。
市場で競りにかけられ、誰かに買われて生涯支配される。
昨日までは、伯爵家の令嬢で、将来有望な青年との結婚まで決まり、幸福の絶頂だった。
運命の女神は残酷だと言うけれど、これはあまりではないだろうか。
鉄格子がガタンと揺れて荷馬車が止まる。
どうやら目的地に着いたらしい。
「降りろ」
漆黒を纏った男が扉を開く。
忘れもしない。
祖国に侵攻し、家族や友人、夫になるはずだった若者を奪った張本人。
トロイア帝国の将軍、オデカルト。
彼は私の首の鎖をつかみ、強引に引きずり出す。
どこかの砦のようだった。
戦を想定した重々しい城壁と堀に囲まれている。
優雅さとは程遠い居城である。
「女よ、運がよかったな」
何を言っているのだろうと思った。
運がいい?今から奴隷になる私が?
もし、ほんの少しの勇気があったなら舌を噛み切っているというのに……
「貴様には、他の仲間たちとは少し違った運命を与える」
オデカルトはまるで神にでもなったかのように宣言する。
なんて傲慢なのだろう。
「貴様は今日から我が物となるのだ。我を君主と仰ぎ服従せよ」
ああ、何のことはない。
私は、この男に買われたのだ。
「安心せよ。我は奴隷を忠臣として遇する。野蛮人のように酷使したりはせぬ。全てを失った身。決して悪い話ではあるまい」
「他の方々はどうなったのです?」
私は恐る恐る口を開いた。
「あの場にいた者のうち、抵抗したものは処刑した。誇りを捨て、命を選択したものについてはそれぞれ奴隷としての運命が待っている。どのような処遇になるかは主人の人格によるだろう」
そこで、一つ疑問がわいた。
「なぜ私を望まれたのですか?」
オデカルトは一瞬考えて口を開く。
「貴様が知る必要はない。知るというのは貴様の領分を越えているのだ。ただ、従うのだ。よいな?」
ああ。これが今の私。
もはや、どのような権利も主人に許された範囲でしか認められない。
生きるためにこの男に従わなければならないのだ。
「仰せのままに。しかし、いずれはこの運命も変わりましょう。私の夫が必ずトロイアに復讐します」
「奇妙な術を使って自分だけ逃げ延びたあの青年か?」
「何か、深い理由があっての事かと存じます。運命はまだ彼を見捨ててはいない」
私には不思議な確信があった。
実際あの時、何が起こったのか。
勇敢に戦おうとしたアスランはどうして、あの場を離れたのか。
私は彼をよく見ていたけど、本人の意思で逃走したようにはどうしても思えなかった。
彼は必ず祖国を救済しに現れる。
今は、耐える時なのだ。
「なるほど……」
オデカルトは何故か嬉しそうにしていた。
「貴様こそ真の勇者なのかもしれぬな」
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