スパイスも効きすぎれば毒:お宝さがしゲーム編にっ

 ただ単に、女の子って落ち着いた感じのする生き物のような気がするんですよ。そりゃまあ、気が強い子だっていっぱい見てきました。二次元でも三次元でも………。その両方に存在する女の子は顔を軽くビンタしたり、腹に蹴りやパンチをくらわせるといったものです。そして愛の鞭かただのドSかは知りませんが、その物語の主人公やその友達などは数秒後にはケロッとしています。まあそれでも随分人間離れしているのですが…………………今俺の視界に入っている一人の美少女。美少女だけだったらなんの問題もない。「だけだったら」………………。でも、そんな淡い願いは目の前の光景で既に粉々に霧散していた。先ほど述べた通り、漫画やアニメの主人公や登場人物はすごい。傷の治りとかヤバイ。人間離れしている。しかし、それをも超える人間がいる。目の前に。

 開始の放送が終わると同時に反響した轟音。

 その音源を辿るとゾッとした。

 そう、美少女だけなら、何の力もない美少女がそこにいれば心配し、声をかけたかもしれない。

 だけどだけどだけど、


 ―――なんで、あなたみたいな美少女が拳、握ってるんですか!?


 彼女は立っていた。コンクリートの残骸に。

 彼女は笑っていた。舌を出して自分の口を舐めるように。

 彼女は見据えていた。俺という人間を。


 

 な、なにがおこった!?

 情報の処理が間に合わない。今まで見たことがない光景に。

 状況からみて、まあ彼女が壁を破壊したのだろう。…………己の拳で!だって工具とかも見当たらないし。

 『彼女』が。『彼』ではなく、『彼女』が。

 なあああああああああ、ウソだと言ってえええええええぇぇぇぇぇぇぇ!

 やばい、やばい、やばい。

 ずっとこっち見てんだけど!

 俺は前にいるはずの吾壌が背中にしがみついていることに気が付いた。

 ラッキーなことにおっぱいが背中に押し当てられているが、その感触を味わうことにさえ神経をまわせない。

 全神経が彼女の一挙一動に反応する。

 おいおいなんなんだよこの緊張感!もっと別のホワホワした場面でしたかったよコンチクショー。

 だって転入生だぜ?俺。

 こんなバトルで、ゲバルトで、バイオレンスな空間いたくねえんだけど!?もっとコミカルで愛あふれる空間にいたいんですけど!



 トスッ。

 粉塵が舞い、柏桐の視界を濁す。

 コンクリート破壊魔は瓦礫の山から飛び降り、タンッと滑り込む。その行動自体、高校生離れしている。

 顔を引きつらせながら、急速に意識が吾壌の方に移る。庇う、という咄嗟の行動に何か言おうとしているがそんなものを気にしている暇はない。

 恐怖が近づいてくる。

 鳥肌なんていう無意味な反射にも気づかない。

 女性が迫ってくる。

 文字にしてみれば、男なら羨む光景だが、ぶら下げている両手は凶器そのもの。チェーンソーを笑顔をまき散らしながら追ってくる女を見て逃げない人間がどこにいるというのか。

 しかし状況が違う。

 男子は誰でも死ぬなら、女の子を助けて死にたいと思って生活する生き物である。その本能的反応は拍手を貰えるものだったろう。

(この学園、医療費くらい払ってくれるんだろうな!)

 こんな鬼気迫る状況においてもこんなことを考える自分に辟易する。

 でも、表情筋を緩ませる、介入させる時間も無い。

 一瞬にして自分の攻撃範囲を捉えたコンクリ先輩は、拳を後方に引き、勢いをつける。あとは前に突き出す。ただそれだけの単純作業。一+一は?と聞かれて二と答えるより速く、そして簡単。まあそんなものが聞こえて、二と答えたならそれはただのドがつくⅯさん。蝋燭たらされ興奮し鼻息が荒い。特殊プレイがお望みなら相手は倶楽部にでも頼めばいい。

 しかしこの時はマゾヒストになりたいと心から願ったという。砂戸○郎のようになれたら、きっとこれから受ける痛みも快楽へと誘ってくれるだろうと………。

 目を瞑る。

 ジャンプする、押し倒す時間もない。

 しかし失策だった。 

 背を向ける。このまま拳が背中に直撃したら、コンクリートを吹き飛ばす威力だ。背骨にひびが入る。軽い方だろう。そこらに売ってあるへたな金槌よりも何倍と威力があるのだから、背骨と共に仲良く脊髄が同じように動く可能性だってあるのだから。

 でも、でも、でも。

 そんな衝撃は一向に柏桐の背中を捉えない。



 痛みが、な、い?

 ――――そんな奇妙な感覚。気配がしたので振り向くと誰もいない感覚。持ってきはずの宿題が手元に無い感覚。置いたはずのない所からひょっこり出てくるあの探し物の感覚。



 情報が交錯する。



 きっと夢だと信じたい……………。

 でも現実リアルはそう簡単にできていないことくらい、彼は百も承知のはず。できもしない逃走劇は身のためにも止めておいたほうがいい。


 困惑した表情の柏桐は瞑っている片方の目だけを開けようとした瞬間―――


 


 ドゴンッッッッッ!!!!!

 二回目の鼓膜を揺らす轟音が……………鳴り響いた。




 んんっ?


 目を丸くした俺と吾壌。

 さっき打った豆鉄砲が本当に返ってきた。

 その鳥のような二人の目に映っていたのは、


 ―――――黒髪ロング素敵な……………王女様だった……………。


 宙に浮かせたままの右足を静止させたままたっぷり十秒。

 「…………ううっ。だ、誰よ………!?」

 呻き声を上げ、コンクリ製の壁にめりこんだ体をはがそうとしている。おいおい、五メートルくらい吹っ飛んでるぞ。その子が気絶していないことを確認した瞬間、王女様の右足はすでに一メートル先にあった。

 追撃をかわそうと床に落ちた自分の身を起き上がらせ、横にあったゴキブリホイホイを掴もうとする。

 反射的に投げつけたかったのだろうが、叶わない。

 王女様は一瞬にして近づき、その白い腕で首を人型にあいた窪みに押し付ける。

 しかし………手も足も振るわず動かしたのは意外にも、口だった。

 耳元に寄せて唇を震わせる。

 「彼は私のもの、手出しは無用よ」

 なんて言ったんだ?

 静まり返った廊下ですらその声を聴くことができない。

 王女様は無言の笑みで相手を見る。そして、そいつの意思を引き継ぐように、こちらを視界の真ん中へと移動させる。

 直感とかんなもんいるかあ!行動を見てりゃわかんだよ、こえーよあの王女様!てっきり、ひきこもりのダメダメドジっ娘だと思ってたのに!

 とにかく、

 「行くぞ、吾壌!逃げられるかわかんねえけど!」

 さらに震えが激しくなった少女に叫ぶ。

 「…………」

 「………先に言っとく、すまん」 

 コイツ、腰が抜けてやがる。生まれたての小鹿もといバンビみたく。

 お姫様抱っこをし、死ぬ気でその場から逃げ出す。

 力強く、一歩一歩と足を進めるのだが…………



 「へえ~この子がお気に入りの」

 「ですわ。言われた通りの平凡な顔」



 突然現れた二人の女子。

 態度から察するに、王女様の味方なのだろう。

 クソッ、退路が断たれた。

 一本道の廊下で前後には良いとは思えない空気を漂わせているものが三人。でも、いい匂いはする。右にはでかでかとできた大穴があるが、中は教室。コイツを抱えたまま、窓ガラスを割ってダイブってのはきついな。

 「なんですか、見た感じ先輩っぽいんですけど?まさか三人で平凡極まれりな俺と、腰ぬかしてる女の子をリンチってわけじゃないですよね」

 「ええ、そんな趣味はないですわ。どちらかといえば私、いたぶってほしいですわ。ほら、ここに鞭が………はぁはぁ」

 前方に構えている二人のうちの一人。アンティークショートの紫色の髪を揺らしながらプレイのお誘いを言いつつ、どうやらマゾヒストらしい先輩は自分のスカートの中に手を入れ、鞭を取り出し、ペシンと一回手を打つ。

 恍惚の表情を浮かべ、自分を抱くように悶える。なんだこのヒト。エッロ!

 「そんなもの後からいくらでも頼めばいいでしょう?今はそれより、やることがあるでしょう?」

 もう一人の女生徒。もうほとんど見たことがないポニーテールの茶髪。それと、なんか帯刀してるんすけど。模造刀とは思うけど……。でも、本気で振れば骨くらい砕くだろう。

 「そうでしたわ。それよりこういうことはリーダーであるアナタの口から言うことじゃなくて?ねえ、幼馴染・・・の千宮詩静薫せんぐうししずかさん?」

 指を唇にあて、挑発するように首を傾げる。

 「っ!そ、そうね。…………柏桐弘幸アナタ私達と一緒に行動しなさい!」

 人差し指を呼称通りに使う、我が校の王女こと千宮詩先輩。

 あのマゾ先輩と幼馴染であるらしいが今いうことか?というどうでもいいことは捨ておくとして、一緒に行動?意味わからん。

 身勝手に進められるこの悪意しか感じられないとんでもイベントに、頭が追い付かない俺達二人。

 ところで吾壌、もう重いからおろしていい?本当に置いてけぼりの彼女からの返事は目に見えていたから、言わないでおくことにした。





 場所は一転して校舎裏。ホントに自分から被害者臭がいい加減漂ってきそうだぜ。

 さっきの場所は壊しに壊して、思った通り人が集まってきた気配がしたので、コンクリ破壊星人が壊した壁から入り、その教室の窓から外に出ることになった。その場にいても怪しまれるだけなので、ということ。今までほとんど会話に混ざってこなかった少女を抱いている俺を、三角形の形で囲むように千宮詩先輩とマゾ先輩とうんとか先輩が並んで歩く。怪しまれるという危惧はどこに行きやがりました。

 で、校舎裏。

 そこについた時、先輩方からでた開口一番の声は優しさが籠っていた。

 「「「で、なんでその子おろさないの?ていうか重くないの?」」」

 じゅ、純粋な先輩達の言葉が吾壌に刺さっているような気がする!

 自分の状況に気がついた吾壌は俺の腕の中でもがいている。

 「ッッッッ!は、早く言いなさいよ!もうっ」

 え?いや、だって言ったら殴るじゃん!

 「あ、ああ」

 とは言えない俺。適当に返しながら、吾壌を置く。

 少し赤くなっている腕をさすりながら、

 「で、一緒に行動って?裏があるとしか思えませけど」

 助けてくれたのは素直に嬉しい。だが消化しきれない部分もある。

 「というと?」

 ポニテ帯刀先輩が訊く。

 「だってそうでしょう?まず、なぜ助けてくれたのかわからない。利益はあったんですか?初対面の俺らを助けてって、初対面?」

 横で軽く涙目になっている彼女に訊く。小動物みたいで可愛い。

 「う、うん。面識はないよ。ですよね?」

 忘れていたら失礼と、思ったのだろう。三人を見回しながら吾壌は尋ねる。

 「そうですね」

 「そうだよ」

 「そうよ」

 肩をすくめ、あらためて俺の方に向き直る。

 「次になぜあの場面にいたんですか?あそこはあまり生徒はおろか、教師でもあんまり通らないそうじゃないですか。でも、なぜあそこにいたのか。つけている、ということじゃないんでしょう?コイツが標的ならさっさと担いで逃げればいい。違いますか?」

 「うん。あそこにはさっきの壊した人と私達しかいなかったはず………」

 そう、偶然であってもでき過ぎている。

 「ふむ、ではそれを聞けば共に行動をとってくれるのだな?」

 「まあ、解答次第ですけど。さすがにコイツがさしだされる。とかはなしっすけど」

 「そうかい、では手短に。コホンッ」

 わざとらしい咳払いを一つ入れ、始める。

 「まず、一つ目。利益はあった。それは何かときかれたら君が怪我をしなかったことだね」

 ん?吾壌ではなく?

 ポニテの言葉に続けて千宮詩先輩が言う。

 「次は、そうねちょっと知り合いにアナタの顔見知りがいて、危なかったら助けてやって。と言われていたからよ」

 信用はしないほうが良さそうがいいな。

 「あの場所にいたのは全くの偶然よ。たまたま通りかかっただけ。別にあんまりといっても、絶対ってわけでもないでしょう?」

 「た、確かに」

 あやふやだ。

 「でだ。最後にお前たちは私達の標的ではない。だが、人数が大いにこしたことはない。このイベント、強いものがいた方がそちらも都合がいいだろう?そういうことだ。何か質問は?」

 確かに、一理ある。こっちにとってもいいことだ。しかし、それを確実にするためにはもっと強いチームもあったはず。なのになぜ俺らを選んだ?理由は?

 「では一つだけ、なぜ一緒に動く相手を俺らみたいなやつらに?自分でいうのもなんですけど、俺多分先輩方より余裕で弱いですよ?助けたならそのまま捨てておけばよかったものを……なぜ、俺らを選んだんですか?」

 リーダーである千宮詩先輩を見る。

 先輩は唇をかみ、言葉を絞るように出した。

 「…………それは―――――――――――――――」

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