パクるなよとか言う奴に限って最後は大体借りパクする:お宝さがしゲーム編いち

 現在時刻:八時二十五分

 第二棟のその人気のない廊下で、俺と管理人さんと吾壌の三人は、早速あのイケメンボーイを三十メートル後方の物影から見張っていた。何やら悠々と女子メンバーと会話を楽しんでいるらしい。笑い声がここまで伝わってくる。野郎はなぜかちょこんと廊下に置いてある机に腰かけ、その前に立っている女子はチームなのだろう。

 ところで、そのイケメンクソ野郎……もとい櫻樹何某君がどのくらいイケメンかというと………。

 顔は中世的な顔立ちで貴族を思い出させる風貌。髪染は禁止ではないというこの高校だが、その金色輝く色はどうやら地毛らしい(本人談)。体は細身ではあるが筋肉はつくところにはしっかりついているらしい(晴海談)。しかもその金髪が頷けるかのように、イタリアの母と日本の父を持つ一人っ子。しかも家が金持ちで英才教育を受けていたとか(これまた晴海談)。

 まあこれだけのものが詰まっていればモテないという方がおかしな話ではある。

 ああ、ホント羨ましい限りだよ。まったく。

 そんな男子の恨みを買いまくって捨ててそうなヤツに視線を浴びせる。しかし、シャワーの口からでたそれは、モテ男にかからず勢いが死についには出なくなった。それもそのはず、こんな汚い目線を管理人さんにむけるにはいかない。 

 「すみません二人とも少しこちらへ」

 ちょいちょいっと手をこちらへ小さく振る。 

 「どうしたんです?」

 さらに遠くの物影に隠れながら俺は尋ねる。

 吾壌は現在進行形で観察している。

 「ええ、作戦を立てようと思いまして」

 「「作戦?」」

 驚いたのだろうか吾壌が観察の目をこちらにむける。

 「はい、リーダーは吾壌さんに決まりました。この中で唯一の男子である柏桐さん、運動が苦手な私。そして吾壌さん。機動力を削ぐことも攻撃力を制限させることのできない状況です。だからリーダーは間違いなく、吾壌さんが相応しい。ここまで、いいですか?」

 なぜ、管理人さんはここまで本気になるんだ?俺の中の管理人さんは「ふふ、頑張って私の盾となって下さい」とか言ってるのに。

 「はい」

 「うん」

 俺らが頷き本題へと移行する。

 「そして、作戦なのですが。私より機動力があるにしても吾壌さんは女の子。しかも細い。だから、筋肉の鎧も脂肪の壁も存在しない。ですよね?」

 「う、うん。もちろん………!」

 「なので、こうしましょう。そういう吾壌さんには本物の盾が必要です」

 「盾?」

 吾壌が疑問符を浮かべる。

 「はい、比喩表現ではなく本物の盾です。といっても着る類のものですが」

 比喩じゃねえかい。

 「そんなものあるんですか!?この学校」

 驚きだ。どこかにひっそり刀と一緒に収められているのだろうか?

 「はい…………剣道部に」

 「ってパクるんですか⁉つか、でもだったら他のヤツがもう取っていってるんじゃないですか?」  

 当たり前の問題だ。しかし横から声が発せられる。

 「それはないと思うわよ。あそこは窓ガラスが割れていて立ち入り禁止になってるから」

 なぜ?と尋ねるだけ時間の無駄だ。

 俺は率直な疑問を管理人さんにぶつける。しかし―――

 「じゃあどうやって手に入れるんです?さすがにこんなイベントの中そんな所に入ったら怪しまれるどころか―――――」

 と、そこでタイミングが良いのか悪いのか放送が割り込む。

 「どーもー生徒諸君。さて、開始七分前だが準備はできているか?で、質問を受けたんだが、剣道部などの立ち入り禁止区域に入ったものは失格にするよー。もちろん監視はつけるから無茶はダメだよー。でも、そんな無茶をするやつは嫌いじゃないので怪我とかしたやつは保健室に行けー。大丈夫、そこは戦闘禁止区域だから。あ、もちろんそこで何かしても失格ね。その区域は生徒会室と執行委員室もだから。じゃ、そういうことで~」

 放送が終わった。なるほど行ける場所も限られるのか………。

 「って管理人さん!入れませんけど、怪しまれるどころか捕まりますよ!」

 「入れないとはどこにです?」

 「いや、だから剣ど――――」

 「図書室にも入れないなんてそんなに本が嫌いですか………?」

 「「…………?どゆこと…………」」

 ハモリのハーモニーが豆鉄砲の如く飛ぶ。その豆鉄砲、一周回って俺と吾壌のところにくるのだが。

 「まあ、時間も無いですし端的に説明しますと…………。こういうこともあろうかと隠しておきました!図書室に。いや~まさか使う時がくるとは…………」

 あんたは中学二年生か。あの夏に帰りやがれ。 

 「あるのはわかりました。だけど、どこに?」

 「確かに、ここの図書室広いわよ」

 「承知しています。だからこそ隠したんです」

 ま、確かに妥当だろうな。しかも、毎日のように行ってそうだし。感じ的に。

 「で、その隠し場所は?」

 催促する吾壌にまったをかけまた、開口する。

 「待ってください。その前に最初の役割を決めなくては」

 「役割?」

 リーダーしかっりしろい。

 「さすがに今からどう行動するかぐらい決めておいた方がいいですよ」

 「ま、まあ確かに………」

 れぃーだぁー。

 ポリポリと頬をかきながら、

 「それで、役割ですが。リーダーたる、吾壌さんは勿論さっきいった盾を取りに行って下さい!」

 「わ、わかった」

 もう、どっちがリーダーなのかわかんねえや……。

 「次に、柏桐さん」

 「は、はい」

 俺を一瞥し視線を吾壌のほうに変えながら、

 「柏桐さんは吾壌さんの護衛をお願いします」

 「えっ?理由はわかりますけど、管理人さんはどうするんですか?」

 「はい、ここからは二手に分かれます。吾壌さんが盾を取ってくる間、私は櫻樹さんを尾行します。大丈夫、リーダー以外、標的以外誰も狙わないでしょう。だから心配はなさらなくて結構です。それで、その間の連絡としてお二人の電話番号をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 首を傾げるその姿………素敵!

 「もちろんです!」

 「うん!」

 二人共ポケットからスマホを取り出して、連絡先の交換を行う。

 ヤッホーい。って魔法があったらきっと花火出すヤツだ。

 「では、その盾の場所ですが………――――」

 と、そこで言葉を止めた管理人さんを怪訝に思い、目線の先を見やると、イケメンが移動を開始していた。

 見失うわけにはいかない、と視線で俺達二人に語ってくる。

 俺らは頷き、腰を上げる。

 とりあえず第一段階の作戦は決まった。

 口から大きく息を吐く。ため息ではない、別のもの。

 「では、図書室についたら連絡下さい」

 「はい、管理人さんも何かあったらすぐにでも連絡下さい。吾壌と二人で駆けつけます!」

 親指で右横にいる少女に指さす。

 「うん!無理しないでね」

 「はい。それでは………」

 その言葉を残し立ち去ろうとする中、俺は訊かずにはきられなかった。

 「あ、あの管理人さん!」

 「?」

 「なんで、こんなに協力してくれるんですか?」

 「………私、こういうイベント大好きなんです!!!」

 小走りで行ってしまった。

 その置き土産は、とても嬉しく感じた。

 

 「さ、行くわよ。早くにでも戻らないと気がきでならない」

 「そうだな行くかッ!」

 軽く小走りで地面を蹴った。

 

 立ち位置としては吾壌が前方、俺が後方というものだ。後ろからの攻撃は俺が防ぐ。

 っていうか、このイベントというよりさっきの話合い、いつの間にか「お宝争奪格闘バトルロワイアル」みたいなのになってんのん!?物騒なんだけど。なんだ?もうちょっとアハハウフフの追いかけっことか想像してたりするんだが………。

 心情とは違うが、夢見がちな俺の思考を悟ったのか突然吾壌が話し出した。

 「この学校って部活動がさかんなのよねえ」

 「え!?あ、ああ」

 「もちろん、運動部文化部ともに。しかもこの学校、部活の数も以上なのよ。その中にはボクシング部やムエタイ、総合格闘技。なんてのもあるわけ。しかも少なくないのよ……………」

 ま、マジでか!!!!やばいやばいやばいよおおおお!本格的にヤバイ!

 女の子相手だから手加減でもいけそうとか思ったのに………………。首筋にたらりと一粒の大きな汗が流れる。

 しかもその上なんだよ!なにが少なくないんだよ……!

 ゴクリと喉を鳴らす。

 「少年ジャンプ思考のお嬢様がたが……………!」

 は、はい!?

 そしてまた俺の思考を遮るように校内に、会長様の声が響き渡る。

 「時刻は、八時三十四分五十秒!

 残り、十――

    九――

    八――

    七――

    六――

    五――

    四――

    三――

    二――

    一――

    零――

       戦闘開始!!!!!!」

 もう、戦闘って言っちゃったじ―――

 


 ドギャッッッッッ!!!!!!

 


 そのとてつもない……………爆発音。

 コンクリートが砕け散った音。

 その音源に首を動かすのに、〇.一秒とかからなかった。



 「さあ、おっぱじめようぞ!我が、好敵手(とも)よ!!!!」


 

 声が聞こえた。

 誰かの声が………………………。

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