ヤンキーなデレ

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ヤンキーなデレ

 タケルは比較的大人しい人種の人間である。草食系男子とでも言おうか、とにかく一般的な男子中学生に比べて、とても静かな男だ。 


 そんなタケルには彼女がいた。彼は草食系でありながらリア充でもあった。

 ちなみにその彼女は……。


「千代子さん、前から言っているけどさ……」


「なんだよタケル」


「タバコやめたら? 健康に悪いとか以前に、僕達未成年だよ」


「うっせーな、俺の勝手だろ」 


 不良でヤンキーだった。タバコ吸う、酒を飲む、無免許で原付を運転。典型的な不良だった。 


 こんな両極端の二人が何故付き合っているのか。それは今回の物語には関係ないので省略する。 


 いろんな障害はあるが、それでも彼らは互いを愛していた。  


 ある日のことだった。


「あぁ!? タケルのやつがさらわれただぁ?」


「は、はい……隣町の不良グループに。これ、果たし状です」 


 千代子は奪い取るように舎弟から果たし状を受け取る。 


 果たし状には、彼氏を助けたければ町外れの廃墟に来い、と汚い字で書かれていた。 


 彼女は果たし状を握りつぶし、原付に飛び乗り、アクセルを全開まで回した。 


 これが先ほど言った、障害の一つだ。千代子だけならいつものことだが、タケルまでヤンキーに絡まれることがあるのだ。 


 千代子は、そのことをとても悩んでいた。自分のせいでタケルにまで危険が及ぶことが、とても気がかりだった。 


 タケルのために自分は身を引いたほうが良いのではないだろうか、そんなことを考えながら原付を走らせていると、例の廃墟についた。 


 彼女は扉を蹴り飛ばし、廃墟に殴りこんだ。


「おお、勇ましいことで」 


 建物の中にはタケルと、そしてタケルを囲うように三人の不良男達が千代子を出迎えた。 


 千代子が来るまで痛めつけられたのか、タケルの顔と服はボロボロに汚れていた。


「てめえ、タケルに何しやがった……」


「おっと、動くな。妙な真似をしたら、大事な彼氏さんがもっと傷つくぜ?」 


 千代子は悔しい顔をしながら、拳を下ろす。 

 三人グループのリーダーは残りの二人に、千代子を襲うように命じる。


「(敵は男が三人。二人なら何とかなるけど、あと一人が厄介だな。どうする? タケルが人質に取られちゃ……)」




「実は僕、エスパーなんだ。今、千代子さんが考えていること、当ててみようか?」 




 突然、タケルがそんなことを言い出した。 

 エスパーと言う単語に、千代子はキョトンと、不良三人は爆笑した。


「千代子さんは『二人なら何とかなるけど、三人はキツイ。しかも人質がいるから満足に戦えない』って思っている。そうでしょ?」


「どうなんだ、千代子さん?」 


 不良がわざと、さん付けで千代子に尋ねる。 


 千代子は、確かにそう思った、と正直に答えた。


「ははは。こいつはスゲエ。じゃあ彼氏さん、俺が何考えているかは分かるか?」


「知らないよ。僕は千代子さんの彼氏だからね。千代子さんの考えていることしか分からないよ」


「何だよ、つまんねえな」 


 不良リーダーがタケルを蹴ろうした。 


 しかし、相手の脚をタケルは受け止めた。 

 そして流れるようにリーダー格を投げ飛ばし、地面に叩きつけた。


「痛ってぇ……」


「言ったでしょ。僕は千代子さんの彼氏だからさ。……彼氏なら、彼女を守らないとね」 


 タケルはリーダー格の関節を押さえ込み、制圧する。


「千代子さん!!」


「おう!!」 


 タケルの合図とともに、千代子は残り二人の不良を蹴り飛ばした。


「てめえら。タケルを殴った分だけボコしてやる……おいタケル、こいつらに何発殴られた?」

「二十四発。あと蹴りが五回、頭突きが三回」

「じゃあ利子付けて百発殴ってやる!!」 


 人気の無い廃墟に、不良三人の叫びがこだました。






「なあ、後ろに乗れって。その方が速いって」


「原付の二人乗りは違法だよ。てか、そもそも千代子さん無免許でしょ」 


 千代子は原付を押しながら、タケルはそんな彼女の隣を歩く。


「それにしてもタケル、あんな技いつの間に……」


「千代子さんと付き合い始めてから、不良に絡まれることが多くなったからね。こんな時のために、密かに訓練しておいたんだ。まだ護身術レベルだから一人しか相手にできないけどね」


「……」


「今回は千代子さん頼りになっちゃったけど、いつか僕一人で不良達を制圧できるように頑張――」


「なあタケル」 


 千代子はタケルに言った。別れよう、と。これ以上自分のせいでタケルが危ない目に遭うのは見ていられない、と。 


 哀しそうな顔をする彼女に、彼氏は。


「ダメ」 


 それだけ言った。


「で、でもタケ――」 


 何か言おうとする千代子の口を、タケルは自分の口で塞いだ。草食系とは思えない行動に、千代子は驚きの言葉を発しようとしたが、塞がれていて言葉が出ない。 

 護身術の訓練で、タケルは少しだけ肉食になっていたのだ。 

 しばらくして、タケルは千代子を解放した。


「それ、僕の答えね。たとえ何人不良がやってきても、千代子さんと一緒に戦う。絶対に別れないから」 


 そう言ってタケルは千代子の三歩先を歩く。 

 千代子は自分の唇をそっと触る。まだしっとり感と生暖かさが残っていた。


「た、タケル!!」


「なあに?」


「こんな俺だけど! これからもよろしくお願いします!!」


「もちろん」 


 とびっきりの笑顔で、タケルは応えた。


「でも千代子さん。キスする時ヤニ臭いから、やっぱりタバコはやめて」


「うっ。ぜ、善処します」

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