黒蝶編
第一話 日常の中の異常
アラームの音が鳴り、そろそろアルバイトの時間だということを自覚する朝の九時。身支度を整え、眼鏡をかけて鏡を見る。普段と変わらない、少し明るい茶髪に黒目の自分がそこには映っていた。そして、焼き上がったトーストにバターを塗りながら朝食を取っていた。
「そろそろ、行かないと遅れる!」
ふと時計を見て、慌ててトーストを口に入れながら家を出る。
「はい、桜庭です」
無線のイヤフォンを押して、電話に出る。鳴ったのは二台目のスマホ。話を聞きながら、自転車を止め了解の旨を伝えて会話を終えた。
「どうやら今日は、ここだけで終われなさそうになっちゃったな……」
誰に言ったわけでもないことを言いながら、ロッカールームへと足を運んだ。制服に着替え、髪の毛を整える。鏡に写る自分を見ながら、黒の奥に隠れた赤が薄ら笑いを浮かべた気がして、扉を閉めて一度瞼を閉じた。
「さて、頑張ろう」
そう。私は神保町のただの書店店員。周りが知ってるのはそれだけでいい。私の正体など、平和に過ごす人には知らない方がいいことだから。
「桜庭さん。すぐに入れる?」
「はい、大丈夫です。店長」
「悪いね…… 今日、やっぱりお客さん多いや」
そんなやり取りをしながら、そういえば今日はプレミアムフライデーだということを思い出した。そうか、そのせいでお店も混んでるのだと。今日は何かと忙しくなりそうな気がする。気持ちを引き締めながら、私は売り場に出ていった。
モノクロ・クロスタイム 樫吾春樹 @hareneko
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