黒蝶編

第一話 日常の中の異常

 アラームの音が鳴り、そろそろアルバイトの時間だということを自覚する朝の九時。身支度を整え、眼鏡をかけて鏡を見る。普段と変わらない、少し明るい茶髪に黒目の自分がそこには映っていた。そして、焼き上がったトーストにバターを塗りながら朝食を取っていた。

「そろそろ、行かないと遅れる!」

 ふと時計を見て、慌ててトーストを口に入れながら家を出る。桜庭結月さくらばゆづき、二十三歳。都内で一人暮らしをしている、所謂フリーター。アルバイトは書店店員。そして、もう一つある。だが、それは他人には言えることではない。自転車を漕ぎながら、アルバイト先である大型書店が見えてきた。今日も一日頑張ろう。そう思いながら、自転車を漕いでいたらスマホが鳴った。

「はい、桜庭です」

無線のイヤフォンを押して、電話に出る。鳴ったのは二台目のスマホ。話を聞きながら、自転車を止め了解の旨を伝えて会話を終えた。

「どうやら今日は、ここだけで終われなさそうになっちゃったな……」

 誰に言ったわけでもないことを言いながら、ロッカールームへと足を運んだ。制服に着替え、髪の毛を整える。鏡に写る自分を見ながら、黒の奥に隠れた赤が薄ら笑いを浮かべた気がして、扉を閉めて一度瞼を閉じた。

「さて、頑張ろう」

 そう。私は神保町のただの書店店員。周りが知ってるのはそれだけでいい。私の正体など、平和に過ごす人には知らない方がいいことだから。

「桜庭さん。すぐに入れる?」

「はい、大丈夫です。店長」

「悪いね…… 今日、やっぱりお客さん多いや」

 そんなやり取りをしながら、そういえば今日はプレミアムフライデーだということを思い出した。そうか、そのせいでお店も混んでるのだと。今日は何かと忙しくなりそうな気がする。気持ちを引き締めながら、私は売り場に出ていった。

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モノクロ・クロスタイム 樫吾春樹 @hareneko

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