2、女の子の正体
巫女と聞いた僕は一瞬やましいことを想像したが、この子に全て読まれることを思い出し頭を切り替えた。
「助けるって、どうすればいいんだい?」
思わず声をだして霊と会話していた。
傍から見たらヤバイ奴に見えるだろう。
『石を強く握りしめてから、砕ける感じを想像してみてください』
僕は瞼を閉じてからシンプルにC4爆薬をイメージしてみた。
少し間を置いたが何も起きなかったので、次にトンネルを掘るシールドマシーンをイメージすると「パーン」という音と共に、衝撃が手に伝わってきた。
――イメージしただけで石が割れたぞ。僕は超能力者か?
「ありがとうございます。石が割れたのは私の能力の影響です」
残念ながら僕の能力ではなかった…。
瞼を開いてみると少女が立っていた。歳は15~6で背丈は僕より少し低い、黒い髪は腰の上あたりまで伸びていた。
目鼻立ちがはっきりして見目麗しいお姫様にも見える。
「私は
「僕の名は赤目明人、廃道探索家をしてるんだ。君の名前って難しいというか古風だよね」
「そうですか?」
天照大神とか神話に登場しそうな名前だ。
――うーん、どこかで聞いたことのある名だな…。
スマホで検索すると、
現代では巫女ではなく女神として扱われいるようだ。
彼女は霊体なのか実体なのかが気になる。
いろいろ、それっぽいものは見てきたが、ここまではっきりと見えたのは初めてだからだ。
しかも会話ができる。
「君は幽霊なのかな?」
「亡くなったわけではないので幽霊ではありません。ただ…」
彼女は自身のことについて話し始めた。
生まれたのは延長5年、安倍晴明が生きていたころだ。
その村では、災いをもたらす悪鬼が暴れて、凶作による飢餓や疫病が発生したため、彼女がそれを祓うため村に遣わされることになった。
彼女は幾つかの悪鬼を祓い清め、最後に残された者を祓おうとした時、それは幼子に憑依し乗っ取ってしまった。
通常は憑依された者から悪鬼を追い祓えばいいのだが、幼子は完全に乗っ取られていてそれは困難な状態だった。
最悪の場合は幼子の命を奪い悪鬼を祓うことができるが、彼女はそれをすることができなかった。
そこで考えたのは、悪鬼を己に取り込み自我を保ちながら祓い清めること。
これは上位の術者でも成功率が低く、失敗すれば己が悪鬼に乗っ取られ討伐対象になってしまう危険の高いものであった。
その術を使うのは初めてであったが、幼子の命を奪うよりはと良いと判断した。
失敗した場合は、彼女を討つように村人には伝えてある。
彼女は術を使い儀式を始めた。
それは順調に進み悪鬼が幼子から出てきて若宇加能売に憑依を始めた。
自我は保てており成功すると思った寸前、悪鬼が暴れ出し彼女を乗っ取ろうとし始める。
この悪鬼は、成功間際の気のゆるみを利用しようとしていたのだ。
あちらの方が一枚上手である。
彼女は突然の予期せぬ出来事に慌て、儀式を完成させようと急いだが、すんでのところでミスをしてしまい、結果的に近くにあった丸石に悪鬼と一緒に封じられてしまった。
それから丸石は封印石と呼ばれる。
「すごい話だね」
「全ては私が未熟だったからです…」
「封印されてからはどうなったの?」
「不思議なことに意識があったのですよ」
周囲が見えたり音も聞こえたそうだ。
「それは一緒に封じられた悪鬼も同じで、私たちは対話をしました」
「悪鬼も話せるんだ」
「話せる者は稀ですけどね」
彼女は時間をかけ対話を重ね、やがて悪鬼は石の中で清められたらしい。
「術は失敗したけど、対話でうまくいったんだね」
「痛いところつきますね…」
「それからどうなったんだい?」
その後、彼女は村を見守る存在になった。
村人たちが祠を作り彼女の封印石を祀ったからだ。
助かった幼子は大きく育ち村は豊作がつづき、人々の笑顔が絶えなかったらしい。
彼女はそれを毎年見ることを楽しみにしていた。
時は流れある日、大人になった幼子が小さな子を連れてお参りに来た。
あの幼子が、子供を作るまで成長したことを彼女はとても喜んだそうだ。
まるで我が子を見るように…。
さらに時は過ぎ、その子が大きくなる頃、助けた幼子は人生を終えた。
霊体になてから彼女を訪ねてきたらしく、礼をして昇っていったらしい。
それから何代にも渡って、幼子の子孫たちは彼女の社へお参りに来た。
みんなどことなく、幼子の面影と気を受け継いでいたらしい。
彼らが住んでいる村も豊作続きで潤い、
しかし、それは永遠では無かった。
戦乱の世にでもなったのだろう、麓から落ち武者や賊がやってくるようになり村が襲撃されたのだ。
彼女の社は、村の入口に建てられていたため危険性をいち早く察知した。しかし石に封じられた状態で何もできない。
大きな声で叫んだが誰にも通じなかった。
家は燃え、彼女の目の前で逃げてきた村人が惨殺された。幼子の一族も無事ではなく、命を落とした者が多かったが何人かは逃げ果せたようだった。
その後、生き残った村人が少し戻ってきて亡くなった者の骸を手厚く葬る。
子孫の1人が村跡に住み着き、周辺の森や社の管理をしらばくしていたが、彼が人生を終えると村跡はいよいよ自然に還り、彼女の社も朽ち果て、祀られている封印石も地面に転がった。
彼女の社の前は街道になっていたため、以前ほどではないが人の往来はあった。
道端にあった地蔵は、旅人がお祈りをしたり供え物をしていたので、それなりに管理されていたが、封印石は山中に転がる石と見た目が変わらないため放置され続けた。
あの地蔵は何も宿ってないのに、なんであっちだけ敬われるのよと、彼女は嫉妬したこともあったらしい。
大雨が降るたび石は少しづつ流され、やがて街道沿いの路傍の石ころになってしまう。
やがて通行人の衣装が変わり始めたころ街道に変化が起きた。
幅三尺の街道から少し離れたところに、三間もの広さがある道が作られ、
しばらくすると、見たこともない乗り物が通るようになるが、それが通らなくなると道は廃れていった。
時々、木の伐採や山菜採りをする人は見かけるが、四季の変化以外何もない風景を眺めながら時を過ごしたらしい。
そして廃道から70年が経過した今日、僕が彼女の封印を解いたというわけだ。
「私は
――それっていつなんだ?天保や天正より前だよな。
僕はスマホを取り出し検索してみる。最近は山奥でも3Gだけど電波が入るので助かる。
結果、彼女が封印されたのは938年で平安時代のようだ。
「今は西暦2017年。天慶が続いていたら1079年になるのかな」
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