第6話
Ω科には、三人の看護師さんと、二人の医師が所属している。
看護師の和田さんとは、5年の付き合いだ。
上京したときは、薬が合わなかったのもあり、しょっちゅう倒れて病院に運ばれ、その度に和田さんにお世話になった。
和田さんは、血管が見つかりにくい僕の腕に、最初こそ手こずっていたものの、3度目には、瞬時に点滴の針を打てるようになった。
新たに認可された薬を使うことで、頻度こそ落ちたものの、未だに3ヶ月に一度は点滴を打ってもらいに来ることがある。
「こんにちは、晶也くん。調子は?」
「ぼちぼちです。暑いですね、最近」
「ね。昨日よりは少し涼しいけど……あ、あと、担当の先生がまた変わります。紺先生っていう若い先生」
「村田先生の代わりですか?」
「そうそう。若くて見た目がいいから看護婦連中がキャーキャー言っててさ」
「妬みですか」
「うるさい」
顔を見合わせて、少し笑った。診察券を受け取って、席に戻る。
Ω科の担当医師は、医師にαが多いということも関係しているのかもしれないが、しょっちゅう入れ替わるのだ。
数分後、また名前を呼ばれ、診察室に通された。
「失礼します」
見慣れた診察室2。
向かって左の壁側にあるデスクの上には、何冊もの分厚い本が並び、その横に6種類の小さな人体模型が並んでいる。電子カルテを見るためのディスプレイは、旧型のものだ。
金回りが良く、最新機器が揃っていることで有名なこの病院ではあるが、Ω科の診察室は大層簡素だ。というのも、ここに来る多くの患者は、簡単な問診の後、処方箋を受け取って帰るだけだからで、ほとんどの金は外科に回るようだ。
見慣れたデスクの前には、見慣れない若い医師が座り、紙に何かを書き込んでいる。ひとつ前の患者のものだろうか、手早くそれを片付けた。
「はい……えーと、渡邊晶也さん?」
「はい」
医師は、回転椅子をくるりと動かし、こちらに向き直る。
「はじめまして、私が新しく担当になりました、紺、文隆……」
バチリと眼があった。
そのまま、硬直してしまう。
冬の海辺に一人立って、波の音に思考をかき消されるような、有無を言わせない何か。
その人の瞳、その漆黒の向こう側に、何かがあったのだ。
それは、僕にとっての、死刑宣告だった。
酷い耳鳴りがして、全身を寒気が襲った。そして、
「あ、」
遠のく意識の向こうで、その人が和田さんを呼ぶ声がした。
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