第3話
「6年ぶりやんな!」
気が済んだのか、僕を解放した和樹はそう言った。
「そう? よく覚えてない」
「なに、機嫌悪い?」
「別に」
僕の知っている制服姿と、少しだけ重なるスーツ姿。身長は、中学のとき既に抜かれている。片えくぼ以外は、どこにでも居そうな大学生になってしまっている、
「大人になるって悲しいなあ。お前昔はもっとかわいかってんけどな、
相変わらずの変な言葉遣い。和樹は、親が離婚するまでは転勤族だったせいで、方言が混ざりに混ざって、こんな言葉遣いになってしまったらしい。
変わらない言葉遣いに、すこしだけ安堵する自分がいた。
「いいから、行こうよ。こっち」
「おう!」
騒々しいパチンコ店の横の細い抜け道を、アパートに向かって歩き出す。僕の部屋は、
「早めに来たつもりやってんけどな。晶也が居てて、ちょっとびっくりした。いつもそんなんだっけか」
「和樹こそ、遅刻は卒業したんだ」
「俺はなあ、心を入れ替えたんです。陸上辞めた後のバイト先がもう厳しくて厳しくて」
「陸上、辞めちゃったの?」
「おう。んでな、ほら、北高近くのマックあるじゃろ? あっこでバイトしててんけどな。二回遅刻したらクビになりそうになって、ムリくりなおした。結局、直るまでには四回遅刻したけどな、ハハ」
和樹につられて、少し笑った。僕の知らない話を、楽しそうにする和樹。それからしばらく、和樹の話は止まらなかった。
和樹の要望で、コンビニに寄り道した。お酒とおつまみと、和樹の好きなお菓子を買う。
「ワリカンね」
「いいよ、べつに」
結局、結構な量を買い込んだ。二人でまた、僕の家に向かって歩き始める。
「なんか、よかった。晶也がすごい違う人みたくなってたらどうしょって思ってて。なんも変わらんな、結局」
手元のビニール袋をゴシャゴシャ鳴らしながら、照れくさそうに笑った和樹。僕は何も言えなかった。
もっとぎくしゃくする予定だった。その方がいくらか救われたのに。
これからの数週間を思うと、気が重かった。
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