第3話 


「6年ぶりやんな!」

気が済んだのか、僕を解放した和樹はそう言った。

「そう? よく覚えてない」

「なに、機嫌悪い?」

「別に」

 僕の知っている制服姿と、少しだけ重なるスーツ姿。身長は、中学のとき既に抜かれている。片えくぼ以外は、どこにでも居そうな大学生になってしまっている、幼馴染おさななじみ。少しだけ日に焼けている。

「大人になるって悲しいなあ。お前昔はもっとかわいかってんけどな、無愛想ぶあいそンなったな」

 相変わらずの変な言葉遣い。和樹は、親が離婚するまでは転勤族だったせいで、方言が混ざりに混ざって、こんな言葉遣いになってしまったらしい。

 変わらない言葉遣いに、すこしだけ安堵する自分がいた。

「いいから、行こうよ。こっち」

「おう!」

 騒々しいパチンコ店の横の細い抜け道を、アパートに向かって歩き出す。僕の部屋は、善福寺川ぜんぷくじがわの向こう、駅から10分ほどのアパートだ。

「早めに来たつもりやってんけどな。晶也が居てて、ちょっとびっくりした。いつもそんなんだっけか」

「和樹こそ、遅刻は卒業したんだ」

「俺はなあ、心を入れ替えたんです。陸上辞めた後のバイト先がもう厳しくて厳しくて」

「陸上、辞めちゃったの?」

「おう。んでな、ほら、北高近くのマックあるじゃろ? あっこでバイトしててんけどな。二回遅刻したらクビになりそうになって、ムリくりなおした。結局、直るまでには四回遅刻したけどな、ハハ」

 和樹につられて、少し笑った。僕の知らない話を、楽しそうにする和樹。それからしばらく、和樹の話は止まらなかった。

 和樹の要望で、コンビニに寄り道した。お酒とおつまみと、和樹の好きなお菓子を買う。

「ワリカンね」

「いいよ、べつに」

 結局、結構な量を買い込んだ。二人でまた、僕の家に向かって歩き始める。

「なんか、よかった。晶也がすごい違う人みたくなってたらどうしょって思ってて。なんも変わらんな、結局」

手元のビニール袋をゴシャゴシャ鳴らしながら、照れくさそうに笑った和樹。僕は何も言えなかった。

 もっとぎくしゃくする予定だった。その方がいくらか救われたのに。

 これからの数週間を思うと、気が重かった。

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