第2話
平日、夜の
あるいは僕だけがそう感じているのかも知れなかった。
自動改札機からは、スーツ姿の帰宅民が次々と流れ出てくる。
皆、各々の生活のラインに乗り、流れてゆく。交わることもなく、美しく整備されたその
誰かを待っているのは、僕だけのようで、(ただ単にそれだけのことなのに、)僕は目的を失った迷子のようだった。
人々から目をそらすように、視線を泳がせた。隣の柱に貼られたポスターの、女性警官に扮した女優がにっこりとこちらに笑いかけている。ため息。
ガラケーで確認すると、現在7時45分。電光掲示板には、これから到着する数本の電車の表示が光る。3分後に一本、9分後に一本、19分後に一本。
すぐは来ないだろう。いつ奴が来ても良いように、改札の方は、見なかった。それでもヒリヒリするくらい、僕の注意は改札口に向いていた。誤摩化すように、手元のガラケーを開き、じっと見つめる。ボタンを親指で幾度となくなぞる。
手持ち無沙汰に、思わず受信したメールを開いた。
From :
Subject :
本文 : 改札ついたら連絡する!
8時とかだと思う
「
突然の声に、びくりとする。
改札の手前。階段の上には、立ち止まってニコニコと手を振る、リュックにスーツ姿の男。数人のサラリーマンがそれにぶつかりそうになり、睨みつけながら避けた。
あれほど綺麗に流れていたラインを、こともなげにぶちこわす奴。
走って来て、自動改札機に引っかかり、また迷惑そうに睨まれる。どうやら残金が足りなかったらしく、照れたように精算機の方へ走って消えた。
どんな顔して迎えるか、全然考えてなかったことに、今更気付いた。
思い出したように顔が熱くなった。それから、耳も。
ヘラヘラと自動改札機から走り寄る和樹を前に、僕はどんな顔をしていたんだろう。
「晶也ぁぁあ!」
「わ!」
和樹は両手を広げ、僕にぶつかるように抱きつくと、そのまま持ち上げてグルグルと回った。僕は焦って和樹の背中を叩いた。帰宅民が、わざとこちらを見ないようにしているのが、かえって恥ずかしかった。
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