俺は探検家

けろよん

第1話

「ここが伝説の剣がある洞窟か」

 人里から離れた山の中。俺の前には何のへんてつもない洞窟が口を開いている。

 俺は世界各地を旅して財宝を集める探検家をやっている。ここへ来たのはかつて魔竜を倒したという剣が眠っていると聞いたからだった。

「見た感じはただの洞窟に見えるが。とりあえず入ってみるか」

 入っていくと早速コウモリの大群の洗礼を受ける。一流の探検家である俺は今更こんなことで驚いたりはしない。

 臆せず進むとトラップがあった。稚拙な罠だ。こんな物に掛かるのは目の前の岩に潰されている少女ぐらいの物だろう。

 気にせずに進もうとするといきなり足首を掴まれた。少女が睨んできた。

「何で進もうとするのよ! 助けなさいよ!」

「お嬢ちゃん、俺は人助けをするために来たんじゃないんだぜ」

「この薄情者! 末代まで祟ってやる!」

「仕方ねえな」

 助けてやる義理なんてないが祟られても困る。俺が助けてやると少女は信じられないことを言いやがった。

「別に助けてなんて頼んでないんだからね!」

「おいおい、さっき泣いていたのはどこのどいつだ」

「泣いてない! ちょっと岩が痛かっただけよ!」

「ああ、そうですか」

 こいつは相手にしてはいけない奴だ。俺はさっさと進もうとするのだが、少女はついてきた。

「何でついてくるんだよ。帰れよ」

「わたしもここのお宝に用があるのよ!」

「剣なんて手に入れてどうするんだよ。ドラゴンでも倒すのか?」

「魔王を倒すのよ!」

「ああ、そうですか。物好きだね。あ、そこのスイッチは踏むなよ」

 俺がわざわざ忠告してやったのに少女は踏みやがった。突き出て来る槍を俺は両手で軽く受け止めるのだが、少女は壁に貼り付けにされていた。

「助けなくていいんだっけ? 今度はちゃんと聞かないとな」

「ぐぬぬ……」

 俺がからかってやると少女は涙目になって睨んできた。俺はため息をついて助けてやった。

「面倒な奴だな。助けて欲しい時はちゃんと助けてって言えよな」

「はいはい、どうもありがとうございました!」

「お礼はちゃんと言えるんじゃねえか」

 それからもわざとかと思えるほどトラップに掛かりまくる少女を助けてやりながら進んでいくとついに宝箱のある最深部へと辿りついた。

「お宝はっけ~ん」

「おい、不用意に近づくなよ。ちゃんと調べてから……おい!」

 俺が忠告してやったのに少女は容赦なく箱を開けやがった。だが、神様もそこまで残酷ではなかったらしい。少女は伝説の剣を取り上げて喜んでいた。

「お宝ゲット~! これで魔王を倒せるのね!」

「倒せるかどうかは分からないけどな」

「フフン、見てなさい。この剣から溢れくる力を感じるわ。わたしもすぐに強くなって倒してやるからねー!」

「あ、待て! 俺の剣!」

 止める間もありゃしなかった。少女はあっと言う間に走り去っていってしまった。

「風のような奴だったな」

 念のために帰りながら少女がトラップに掛かってないか探したが、どこにも掛かっていなかった。

「まあ、来る時に全部外してしまったからな」

 俺は少し寂しく思いながら、その洞窟を後にした。


 俺はそれからも財宝を求めて旅をしていた。だが、どこか物足りない物を感じていた。

 ある時立ち寄った酒場で何やら話が盛り上がっていた。俺はマスターに訊ねた。

「何かあったのかい?」

「伝説の剣を手にした勇者様が魔王を倒したんだってよ! その勇者様ってのが何と普通の少女らしいんだ!」

「へえ、あいつ本当にやりやがったのか」

 俺はたいして興味もない風に聞き流し、酒場を出て行った。


「で、その勇者様が何で俺の前にいるんだい?」

 出て行った先で前に会った時よりは少し凛々しさを増した少女が俺に向かって剣を突きつけてきた。

「あんたをもらいに来た!」

「何だってまた藪から棒に」

「王様が欲しい物は何でもくれるって言ったのよ!」

「そうかい。まあ、欲しい物があるのは俺も同じなんだけどな」

「嫌だと言っても無駄よ! 今のわたしにはこの剣があるんだから!」

 相変わらず人の話を聞かない奴だ。向かってくる少女に俺は忠告してやることにした。

「そこ石あるから気を付けろよ」

「え? キャアアアア!」

 言ってやったのに少女は転びやがった。すっぽ抜けて飛んできた剣を俺は避けた。

「こんなトラップに俺が掛かると思うか? 魔王ぐらいなら倒せるかもしれんがな」

 俺の背後では剣の直撃を食らった酒場の建物が崩れていっていった。

 涙目になって倒れている少女に俺は手を差し伸べてやった。

「別に助けてなんて言ってないでしょ!」

「俺が助けたいんだよ」

 俺は容赦なく少女の手を引っ張って助け起こしてやった。

「ありがと」

「お礼を言えるのは良いがずらかるぞ。酒場の弁償をしたくないならな」

「うん!」

 俺は少女の手を引っ張って足早にその場を後にした。


 その後、俺達の暮らす家にあるニュースが舞い込んできた。

 何でも伝説の勇者の剣が飾られている酒場が繁盛しているらしい。

 懐かしいニュースに俺達は微笑みあった。

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