第八葉 孤独の悪魔(ヒューマンドラマ)

 華やいだ都会の寂れたビルの屋上に、その男はいた。

 フェンスごしに、白々と明け始めた仄暗ほのぐらく冷たい世界を見ながら、栄華えいかを極めた過去振り返る。


 なあに、自分で築き上げた栄華ではない。ヒト、モノ、カネ、権力、全て父親からの遺産だ。人をねたみ、さげすみ、落とすことだけが男にとっての至福しふくだった。

 それでもヒトは男に群がった。びた。そして男を楽しませた。


 毎日のようにヒトを呼び、カネを使い、オンナをはべらせ、そして男は孤独を消した。

 やがて栄華をむさぼり尽くした時、ヒトは離れ、カネはなくなり、権力も失った。何も誰も残らなかった。ひとりもだ――たったのひとりも――。


 仄暗く冷たい世界を、うらみと共に見ていた男の耳に聞こえる。


 “栄華を取り戻さんとほっするなら飛べ。さすれば栄華は永遠になろう。

 人を取り戻さんと欲するなら――己が判かっておろう?”


 聞こえていた声がんだとき、迷わず男は飛んだ――


 仄暗い世界に“ククッ”と微かに声がした。



- FIN -

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