第二葉 吾輩はトラである(ニャーマンドラマ)

 我が輩はトラである。虎ではない。トラである。この界隈かいわいじゃ少しは名が通った猫である。クールでダンディ、猫界のプリンスと言えばオイラのこと。

 いやー、大したことじゃございやせん。自分の道ってヤツを進んで来たらこうなったってだけですニャ!


 男ニャ男の道ってもんがありましてですね……、女? いやいや、残念ながらそんな軟派なんぱなことは出来やしません。世間ニャ軟派な奴らもいるみたいで女と見れば寄って行き、首根っこ鳴らしてみゃーみゃーと。硬派こうはのオイラからしてみりゃ全くもって虫酸むしずの走るってもんです。女ニャんてもんは自然と寄ってくるものでして、屋根を歩いて午後の散歩に出かけりゃ付いてくる。塀の上を闊歩かっぽしてりゃ後ろに行列が出来るってもんです。付いてくるのは一向にかまやしませんがね、相手にするこたございニャせん。女には申し訳ニャーことですが、それが男の道ってもんです。


 え? 喧嘩ですかい? 馬鹿いっちゃーいけねーです。連戦連勝負け知らず。猫パンチ一発で相手をノックアウトってやつですよ。お陰で「閃光せんこうのトラ」って二 つ名まで付く始末。強ければ強いほど、オイラを倒して名をあげようと隣町からもやって来るってモンですよ。今どき、決闘とか古いことをぬかす時代遅れな猫もいまして ね、こちとら全くもって迷惑な話なんですよ。


 一応飼い主ってものがいますが、殆ど野良みたいなもんです。自由気ままな風来坊ふうらいぼうってやつです。世話になってるんで礼儀としてご主人様とは呼んでいますがね、可愛い可愛いとでくり回されると猫肌ねこはだが立つってもんで、飼い猫ってやつも苦労が多いんですよ。

 まぁ、そんなときはご主人様であっても足蹴あしげにしちゃいますがね。決して、スリスリなんてしやーしません。今までの人生のなかでそんなことをした覚えなんてござりニャせん。


 最近、特にいけねぇのが「トラちゃん」って呼ばれることです。最後に「ちゃん」なんて付けやがった日には返事なんて絶対しやしません。少しはこっちの身にもなって貰いたいもんです。猫界のプリンスが「ちゃん」なんて恥ずかしくて街を歩けねーってもんです。あれだけはがんとして受け入れるつもりなんてございニャせん。そういうときは無視するに限りますニャ!


「トラちゃ~ん。朝食出来たわよー。屋根から下りてらっしゃーい」


おっといけねぇ。そろそろおいとま致しニャす。


「はいはーい。ご主人様、いま急いで行きますニャン! ニャンニャンニャン♪」



- FIN -

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