ショートショート作品集
本栖川かおる
第一葉 カフェ・ラテ(恋愛)
正直、遊ばれているのだと思ってたし、それを承知で付き合い始めた。男性経験が無いわけではない。でも多くはない。
それが私――
いつも女性に囲まれ、一緒に飲みに行っても彼の周りには女性が
しかし、近寄りもしなかった私に彼は告白をした。
憧れていた人だけに、きっぱりと断ることができず、優柔不断な私は結局付き合い始めてしまう。二股、三股掛けてると初めから決めつけていたので、気持ちの上で一線を引いていた。だけど、そんな気配は一切なかった。
――だめだ。騙されてはだめだ。
――私の心がそう叫ぶ。
もちろん、騙されないように監視は続けたし頭から信用なんてしていなかった。でも知らず知らずのうちに、私の心は引き返すことが出来ないほど彼色に染まっていた。
あれから三年。いつものように二人で映画を見たあと喫茶店に立ち寄り、今見てきた映画の感想を二人で話した。これは映画を見たときのお決まりパターンだ。注文するのも、お互いに決った飲み物。
「相変わらずその飲み物だね。ミルク多めのアイスカフェラテ」
注文したものが出てきたときに、彼が言った言葉。
「そうだっけ? でもこれ美味しいんだよ」
彼の言葉に対して、弁論する私の言葉。
普段と何もかわらない二人の会話。しかし、今日は彼の言葉が少し多かった。
「この茶色が俺で、白いのが君だ。お互いに侵食しようとせめぎあってる」
「珈琲とミルクの色の話? それがどうしたの?」
「ん? なんか俺たち二人を表しているなと思ってさ」
言われてみれば、お互い相手の色に染まらないように頑張っているように見える。でも無駄な努力とばかりに、じんわりと相手の色に染まる。面白いことを考えるなあと思った。
「混ぜたらどっちの色が強いかな?」
いつも飲んでいるミルク多めのカフェラテ。混ぜれば白が強くでる、私の好きなカフェラテ。
「いつものカフェラテの色になるよ」
「じゃあ、混ぜてみて」
テーブルにグラスを置いてゆっくりと掻き回す。
二層に分かれた中身が、お互いを牽制し合うように徐々に混ざり合っていく。
茶色が白を、白が茶色を侵食しながら混じり合っていく。全てが混じり合い、白が少し強めのカフェラテになったとき彼が言った。
「結婚しよう」
グラスの氷が小さく鳴った。
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