第三葉 泣かないよ……。(ヒューマンドラマ)

 ママがいなくなった。さっきまで後ろにいたのに。

 でもボクは泣いたりなんてしないんだ。男の子だもん。


「ボク、迷子? お父さんかお母さんは?」


 おなかにトラさんの怖い顔が書いてある、むらさき頭のオバチャンが訊いて来た。


「おばさんと一緒に迷子のところに行く?」


 ボクは迷子じゃない。迷子は、ママの方だ。


「大丈夫。ボク迷子じゃないから」


***


 近くでドラゴンが火を噴いた。

 でもボクは泣いたりしないよ。お兄ちゃんだもん。

 だから、迷子になったママを探して右にいくことにする。

 そして、次は左にいくのにクルリとしたらぶつかった。太くて大きな木に。


「おやおや。ごめんねボク。大丈夫だったかい?」


 ちがった。木じゃなくてオジサンの足だった。


「大丈夫。ボク迷子じゃないよ」

「そうかいそうかい。わかっているよ。気をつけて探すんだよ」


 にこりとしてオジサンが頭をなでてくれた。

 ボクは少し重いリュックをしっかりトントンした。


 近くでライオンさんが、握手したりみんなと写真を撮っているけど、今のボクは握手なんてしたくない。絶対したくないんだ。するものか。

 ライオンさんの上には、大きな丸い形のものがゆっくりと動いていて、骨みたいなのがいっぱい繋がっていた。カンランシャってママが言ってたやつだ。


 どこいっちゃったのかな。なんだか少し寒くなっちゃった。


 ボクは走った。全速力で。ママを見つけた。迷子になったママをやっと見つけたんだ。


「ママーーー!」


 足にしがみついて上をみたら知らないオバチャンだった。


 絶対、ママを見つけて怒ってやるんだ。“メッ”って。

 だからボクは泣かないんだ。絶対泣かないんだ。だってボクが怒ってやるんだから。


「ユウキ!!」


 ボクの前でママの声がした。一生懸命走って抱きついた。


 鼻水がいっぱい出た。それ以外もいっぱい出た。

「ママーー」って言おうとしてるのに、「バーバー」になった。


 妹がボクを見て笑ってた。



- FIN -

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