第六葉 天網恢恢疎にして漏らさず(ことわざ)

ニンゲンの欲望は増幅する。

悪いことをする心はエスカレートする。

ほんの出来心だった。


ボクは経理マン。

と言っても空は飛べない。十万馬力も出ない。

でも経理マン。


会社の金庫から無断で千円借りた。

大丈夫。すぐ返せる金額だから。

いつでも返す気はあった。

だって千円だもの。でも借りたことは誰も知らない。


数日後、今度は三万円借りた。また、黙って。

大丈夫。すぐ返せる金額だから。

給料が出たら黙って金庫に戻しておこう。

だって三万だもの。簡単さ。借りたことは誰も知らない。


どうしても一千万必要になった。遊ぶ金も含めて。

会社の金庫にそんな大金入っていない。

ボクは会社の通帳と印鑑を持って銀行へ行った。

時間はかかるけれど、少しずつ埋めていこう。

でも、そんな大金を借りたことは誰もしらない。


女が出来た。結構金がかかる。

バッグが欲しい。車が欲しい。アクセサリーが欲しい。

そんなのばっかりだ。エッチもさせてくれないのに。

一千万も借りてるんだ。それが多少増えたってあまり変わらない。

だから、僕の欲望の方が優先されるのだ。


ボクは捕まった。警察に。

業務上横領ぎょうむじょうおうりょうだそうだ。

ああ。あの時の千円を借りていなければ……。

そんな想いが胸を突く。


天網恢恢疎てんもうかいかいそにしてらさず』


天の張り巡らしたあみ(天網てんもう)は、広くて大きく(恢恢かいかい)あら()い。それでも絶対にもららすことはない。

悪事の大小に関わらず、必ず天罰が下るという意味だ。


千円でも横領すれば悪事だったなぁ、と思いながらボクはパンダの車に乗った。

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