「星の王と星の石」
青谷因
「星の継承」
いま、星は深刻な事態に直面していた。
星を護りし王と、星の核となる石にその兆候が現れはじめてから、数年の月日がたっていたが、なんとかここまで持ちこたえてきた。
だがそれも、そろそろ限界が近いと、星の人人はうすうす気付き始めていた。
『王位継承の頃合なのではないか』と。
王は、決断する。
「余力のあるうちに、力持つものへ跡を引き継ぎたい。そうすれば、反動が少なくて済むはずだ」
“力持つもの”は、王の一族にしか存在しない。
そこそこの力を発現する者は少なからず居るが、矮小なれど星をひとつ御するとなると、おのずと継承者は限られる。
王はついに、二人の男を呼びつける。
「―かねてより察しは付いていると思うが・・・第一王子に、王位を譲りたい」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人は、豪奢な寝具に横たわる老体をただ見つめているだけで、返答は無かった。
「まだ、こまごまとした決め事をいろいろと変えていかねばならないとは思うが、先ずは、私の言葉で、私の口から意思を伝えておきたいと思うのだ」
公式な発表は恐らく、かなり先送られる。
星に暮らす民衆たちだけでなく、関わりの深い星系にも、様々な混乱をもたらすことが容易に推察されるための配慮だ。
「これ以上、待っては居られぬのだ。この数年の出来事を振り返れば、聡い者たちは既に気付いていることであろう」
―星の石を、御する力が弱まっている、と。
「私は、構いません。既に決意は固まっておりますので―ただ、周囲のものたちのために、いま少しだけお時間を頂きたいと」
指名を受けた男がようやく、答える。
この星は、創世当時より長らく、様々な面において、不安定であった。
要因の分からぬ間、人人は荒々しい自然淘汰が繰り返される中、何とかかぼそい命の糸をつないできた。
ある時、偶発的に出現した王の一族の一人が、この星を安定化させることに成功する。
人智を超越したその力は人人から畏敬の念で迎えられると、時に「"星護りの神の子"が降誕した」として、今は王族として、崇め奉られ今に至る。
“力持つもの”とは。
この星の核となっている“石(と称されるもの)”を制御する特殊能力を有するものを指す。
この“石”と呼ばれるものは、いくつもの部分が丁度、人の頭蓋骨を形成するように組み合わさって出来ており、お互いが引き合ったり反発しあったりするため、ひとつ固体として安定していない。
その流動性が、惑星表層をはじめとした、あらゆる箇所で突発的な自然現象を引き起こすので、ひとときも人人の安らぐ時が無かった。
あるときは半球ほどまでに地が裂け、地表に在るものを地殻奥底へと飲み込んだり。
またあるときは、大気に大きな渦を作り出すと、またしても地表を引き剥がす勢いで天高く巻き上げてみたり。
特定の物質で地表を覆おうと、じわじわと高温で蒸し上げてみたり、など。
およそ、生命の存在を認めようとする気配が無いどころか、一方的な拒絶を受け続けていたのだった。
惑星の状態を安定化させるためには、石を制御掌握するしか方策は無く、その責務を果たせる資格能力を有するのが、王族の血筋だったのだが。
ここへきて、継承に際してひとつの課題が持ち上がる。
「・・・私が王として即位するのは良いのですが・・・」
跡目を引き継ぐものが、現時点ではいない。
「・・・そうだな。現在の王室法規では、難しいな・・・」
並び立つ青年が、そう付け加えると。
さしもの王も、考え込んでしまった。
王には二人の息子―王子がおり、それぞれが既に妻となる姫を娶っている。
しかし問題となるのは、彼らに跡取りとしての男児が居ないことだった。
「単なる序列継承の場合は問題ないのですが・・・」
“星を引き継ぐ”大任は、ここ数百年の間は雄子に限られてきた。
「だが、古来はそもそも、女帝統治の世代も少なくなかったのであろう?」
「はい。しかしながら、長らくその慣習が続いてしまいましたので、大幅な改訂をしなければならず―」
「そこに、多くの時間を要する、というのだな。それは仕方のないことだ。しかしな・・・わしの命も限られているのだ」
確かに、創世時よりしばらくは、雌性支配の時代が続いた。というのも、原始の巫女がいちはやく星の石の存在を感知・感応し、御することに初めて成功したためだ。
雄性支配に切り替わったのは、その後ずいぶんと経ってからで。
単純に、力量の大きさから、より安定した状態を保てるという理由に因るもので。
以来、雄性である男児が代々、その役目を担うことが定着したのだった。
また、文明の繁栄により、星の形態も著しく変容させざるをえず、その反動から、たびたびの不具合がおきるようになった。
それらにより一層、星護るものたちの負担も増える。
現王の着任前後は、安定するまでにかなりの時間を要し、また、数少ない“星守”の精鋭たちの負担も、年を追うごとに大きな割合を占めるに至る。
「周囲のものたちの負担も徐々に増えてきています。これは、我ら一族の弱体化というより、星の抱える“ひずみ”が強大化してきた所為だと思われます。ここ数十年の星と石の変異を鑑み、継承にかかわる多くのことについても、協議していかねばならぬ時が来たのでしょう」
第二王子の決意新たな言葉に、二人は同意するように深く頷く。
「あい分かった。わしがまだ動けるうちに、できる限りの会合には参加しよう。今後の王位継承については、お前たちの世代で煮詰めていくほうが良いだろう。そこまでは、わしに時間の猶予が無いやも知れぬからの。また改めて、話し合いの機会を設けよう。王女や姫たちも呼んでな。」
王が締めくくると。
「それでは―」
深く一礼をして、二人の王子が部屋を辞して行った。
―ともすれば、この代で、星の存亡の分ける事態になるやも知れぬ・・・
全身全霊で星と一体化しているような状態にある彼にとって、それはけして過言ではなかった。
「星の王と星の石」 青谷因 @chinamu-aotani
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