3 ありふれた朝
「朝の空気、やっぱり好きになれないな」
傘を広げた彼女は
少し俯きがちに言った
せかせかと横断歩道を渡る会社員
母親に片手を引かれる子供たち
朝の散歩をゆったりと楽しむお年寄り
皆、満たされているようで何処か欠けているような
紛れもない日常を今日も送っている
しかし、そんな日常から少しだけ
そう、ほんの少しだけ
足を踏み外した彼女にとって
その光景は、形はどうであれ
ありふれた一日を
少し早足で過ぎてゆく
ふつうの人達の行進に違いなかった
俯いたままの彼女は憂鬱な目をしている
それは今日だけに限ったことではない
学校に行くわけでも
会社に行くわけでもない
踏み外した一歩を取り戻すための一日、その積み重ね
誰しもが羨む、まるで価値のない、飽き飽きとした日々は
過ごせば過ごすほどに、重みを増してゆく
「好き?夜明けとか、朝とか」
唐突な問いに言葉は濁る
でもきっと、そうじゃない
とうに気づいている
電線で歌う小鳥たちの声は
彼女が、誰よりも知っている
陽が昇る瞬間の灼けるような空を
彼女が、誰よりも待ち望んでいる
雲ひとつないスカイブルーの空も
朝霧に霞む街並みも
俄雨の水たまりも
その全てを排した、ありふれた朝
その中心で、ささやかな一日が
今日も始まろうとしている
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