#55 増えるスキルと不可思議な地図


「とりあえず、この辺りでいいな」


 エルバッツからまあまあ距離がある、ヘルラルラ平原の最深部。

 アグステの森が近くから臨めるその場所に俺らはいた。

 

 ――とあるスキルの効果を実践するために。


「ナナ、頼めるか?」


 俺のその言葉に、金色の髪を持つ小さな少女が頷いた。


「うん、わかった」


 鈴のような声が、承諾の声を伝えると。

 ナナは地面へと小さな手を、ポンと下ろした。


「――ツイン、せっと」


 緑色の地面に、赤い光を帯びる線が描かれていく。

 やがてその線は繋がり、魔法陣のような形が地面へと浮かび上がる。


「はへー、相変わらず不思議やな」

「みゃーちゃんもこっちにきて」


 俺とトラッキーに乗ったミヤが、その魔法陣内へと移動すると。

 ナナが、そのスキル名を唱えた。


 ――【瞬間移動テレポートツイン】。


 プツリと、視界がブラウン管のテレビのように消えると。

 切り替わる様に、視界には違った色が広がった。


 先ほどとは違うその景色。

 目に映るのは、見慣れた部屋の一角。


「ついたよ」


 俺たちは、宿の部屋にいた。

 数秒前まではヘルラルラ平原にいたはずの俺たちが、今は宿にいる。


「はへー、〇ラえもんのどこでも〇アってこんな感じなんやろか?」


 スキルの名前通り、まさにそれは瞬間移動だった。

 そのスキルを手に入れた少女は、控えめながらも少し誇らしげだった。


「すごいな」

「……えへへ」


 ポンポンと頭を叩くと、ナナは小さく照れ臭そうにはにかんだ。


「にしても、今朝も増えてたし本当にすごい影響だな」


 この現状を見て、俺はしみじみとその出来事を思い起こした。

 その"異変"が起こり始めたのは、つい最近のこと。


 ――俺がステータスを書き換えた、その直後からだ。


『アキラ、なんかおかしいよ』


 そのナナの不安そうな声が、"気付き"の始まりだ。

 ナナのステータスのスキル部分には、見慣れない文字列が並んでいた。



 【 スキル 】 神に愛された者 解析M



 それが始まりとして、その文字列たちはじかんばしょばあいにかまわず、どんどん増えていった。



 【 スキル 】 神に愛された者 解析M 鑑定M リエール 光の加護



 と、ドンドン増えていく。

 初めは増える理由が分からなかったが、考えてみれば答えは一つだった。


 スキルが増える理由もまた、スキル。

 【神に愛された者】の影響だった。近いうちには、もう両手では数え切れないほどの数になってしまいそうなペースでスキルは増えていた。


 そしてまた、今日の朝にちょうど増えたのが先のスキル【瞬間移動テレポートツイン】だった。

 何でも、2箇所まで魔法陣をセットすることができ、その場所同士を瞬間移動できるという有能なスキルだった。


 そんなスキルがどんどん増えていくのは、俺らにとっても望ましい。

 そして、その有能なスキルを実際に使ってみて、俺はまたあることを思った。


 ――下手したら、俺たちの目的の障害はもうほとんど無くなったかもしれない、と。



 * * *



 最優先事項は金稼ぎ。

 そして、レベル上げ、冒険者ランク上げ。


 それが、異世界に来てからの当面の目標だった。

 結果としては、金はマリス教にもらったし、レベルはそれほど上がっていないがステータスが上がったので強さという意味では問題ないだろう。


 冒険者ランクも稼げそうな依頼をこなすために上げようとしていたわけだし、まあここは問題ない。

 全ては"他の奴ら"を探すための下準備だったものだ。


 そして、今。

 そのための"資金"と"強さ"はもう手に入っている。


「エルバッツには、いないみたいだしな」


 エルバッツには異世界に来てからずっといるが、全くそういった情報は入ってこない。

 となれば、エルバッツにはいないと考えるのが妥当。


 そうなれば必然的に外の世界に目を向ける必要がある。

 ナナとの出会いや騒動で最近は色々あったがそれらすべてが落ち着いて、好転している今――ここが動き時だろう。


 ナナのことも心配だったが、【瞬間移動テレポートツイン】があれば"エルバッツを拠点"として、様々な場所へと冒険が可能になる。

 一気に視界が晴れた気分だ。


「となれば、準備が必要だな」


 そんな決意を固めた俺は、買い物ついでのミヤたちと一端別れた後、雑貨屋へと立ち寄った。


 地図。

 冒険の道しるべを手に入れるために、俺は雑貨屋へと足を踏み入れる。


 とりあえず、この辺り周辺の地図。

 そして世界全体の地図が欲しいという俺の要望に、店主は不思議そうな顔をした。


「地図は、この種類の地図しかないが……」


 そういってどこからか引っ張り出されたその地図は多分、この辺りの周辺地図。

 エルバッツを中心に描かれている。


「……あ、そうですか。だったらそれをください」


 他のないものは仕方がないと、俺はその地図を代金と引き換えに受け取った。

 帰り際にその地図をそれとなく観察していた俺は、ある違和感を感じた。


「ん? これって」


 その違和感を払拭するために、他の雑貨屋も数件回ってみたが。

 古い新しいはあれ、地図はどれも同じようなものしかなかった。


 そして、その地図は俺の眼にはどれもおかしなものに映った。


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