#28 ミヤと幼女エルフ

 フィリーなどの手助けで、俺とエルフ少女は宿へと戻ることができた。


『大変だと思うけど、頑張ってね。少しは手伝ってあげるから』


 その言葉を最後にフィリーとも別れ、俺とエルフ少女と二人で宿の扉をくぐる。


 相変わらずエルフ少女は一定の距離を保っているものの律儀にこちらの歩みについてきてくれた。

 宿の亭主へと追加料金を払うと、俺はミヤの泊まっている部屋へと向かった。


 ミヤの部屋の前。

 トントンと、俺はミヤの部屋の扉をノックする。


「ミヤ、俺だ」

「――んぐ、アキラおかえひーな。あいほるで~」


 扉を開けると、香ばしい肉の香り。

 部屋の中には鳥の丸焼き数個、そして沢山の骨の山を築かれていた。


 ミヤとトラッキーはおそらくホロホロ鳥であろうその丸焼きをむしゃむしゃと夢中で食べている。


 無駄遣いしやがったな。

 そう思いながら見ていると、ミヤは手羽先部分を頬張りながら言葉を続けた。


「んぐ、ごくん。ごにゃんのとおり、トラッキーも元気になったし、明日からはうちもいけ――」


 俺の方向へ視線を移したミヤは、俺の後ろにいる少女を発見したらしく、一瞬硬直する。

 頬張っていた肉がぽとりと落ち、瞼をぱちぱちさせた数秒後、俺に目を合わせると恐る恐るといった感じで小さく頷いた。


「……アキラ。アキラって元の世界で幼稚園児や小学生を見る目が優しかったり、色々と思い当たる節が結構うちの中ではあるからうすうす思ってたんやけど、実はロリコ――」

「違うわ!」


 何故かロリコン扱いされそうになった。

 そもそも色々と思い当たるって何だ。俺はどこでどう思われていたんだ。


「いや! でも! 言い逃れできん幼女が後ろにおるで! これはいかんで! 事件やで!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ出したミヤをなだめるのに、数分。

 そして、簡単な事情を説明するのに、また数分。


 無駄に疲れた説明が終わると、ミヤは渋々ながらも状況が理解したらしい。


「なるほどなぁ。ロリコンなアキラは可哀想になってその娘を助けたってことやな」

「ロリコン以外はまあ合っている」


 俺たちと距離を取るためか、部屋の隅にいるそのエルフ少女を一瞥するミヤ。

 エルフ少女はエルフ少女で、ミヤの揺れるツインテールとトラッキーが珍しいのか、その両方に絶えず視線を往復させていた。


「ほーん」


 まだロリコン疑惑が消えないらしいミヤは流れる様にジト目を俺に向けるが、その視線はしばらくしてそのエルフ少女へとまた移った。


「……まあでも」


 今度は少しばかり柔らかさを感じる視線をエルフ少女に向けたミヤは、最後にこう締めくくった。


「悪いことではないと思うで」


 そのいつも通りの声色の言葉と優しいミヤの表情は、今日色々あって強張った俺の心を少しばかり弛緩させてくれた気がした。

 その後しばらく興味深そうにエルフ少女を見ていたミヤだが、思い出した様に言葉を発する。


「この娘、名前はなんて言うん?」


 その何気ない質問に、俺はこう答える。


「名前はないんだ」


 ゆっくりとこちらに視線を向け、不思議そうな顔をするミヤ。

 先の説明で詳しく説明しきれなかった【神に愛されなかった者】について、俺が知る限りの情報をミヤに伝える。


 名前がないこと。言葉がないこと。不幸なこと。そして、異世界の人々に忌み嫌われていること。

 全ての情報を伝えると、ミヤは小さく息を吐いた。


「見た感じうちらと変わらへんのやけどなぁ」


 しゃべれないんかお前、とミヤは小さく声をかけた。

 エルフの少女は自分に声かけられたのは分かったらしい。


 が、これといった反応を示すわけでもなく、ただこちらをぼんやりと見るだけだった。

 その様子を見て、ミヤは提案の言葉をあげる。


「うちらで名前をつけてあげるのはどうや?」

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