#23 出会い
影狼が俺たちを囲むと、じりじりと間を詰めてくる。
「……これって他の奴らのところにも出てるのか?」
「多分。ただ"本源"がここだから他の場所はそんなに多くないだろうけど」
そんな会話の間、一匹の影狼がフィリーに向かい、飛び跳ねた。
「――っ」
フィリーは持っていたタガーで数太刀浴びせながら、力で押し込むように影狼を引かせた。
「少なくともここにいていい存在じゃないね」
ぐるぅぅという息遣いが徐々に大きくなる。
俺にもまた、徐々に影狼が距離をつめてくる。
俺はある程度の苦戦を想定しながら、意を決してこんぼうをかまえる。
一匹の影狼が俺へと襲い掛かる。
俺は対峙して、それを向かい打つ。
そいつの脳天に向けて、こんぼうを振りかざした。
響くのは、肉を打ち付ける音。
それに遅れて伝わるその感触は、これまでの物と何も変わらない。
――スライム、河童ロブスター、ピンクスライムと同じように、それは変わらない。
そしてまた。
影狼はこれまでと同じように、影狼は一瞬で絶命した。
……。
苦戦するとの予想を反し、それはほんの数分で決着した。
俺の眼下に影狼の死骸が並ぶ。
それは黒い光となったのち、空気中にとけるように消えていく。
「……やっぱり桁が違う、ね」
俺の様子を苦笑いしながら見ていたフィリーは、
倒した数体の影狼の死骸を飛び越えながらこちらへと来た。
「とりあえず、いったん入口付近に戻りましょ」
「そうだな」
その提案に俺は頷き、俺たちは来た道を逆走する。
「……それとアキラ、ごめんね。それにありがと」
振り向き様に放ったそのフィリーの言葉に、俺は小さく頷いた。
* * *
来た道を帰る途中、クラードらとの集団と合流することができた。
「おお、お前らも無事だったか」
「そんな感じ。そっちはどう?」
「怪我した奴はいるが、思ったより被害は大きくないな」
クラードたちの話を聞くに、やはり影狼はこちらにも発生したらしいが数がそこまででもなく、ツーマンセルやスリーマンセルのおかげで被害は最小限で済んだらしいとのことだ。
ただクラードは納得いかなかったらしく、首をひねっていた。
「しかしどうして影狼が?」
「実は……」
フィリーの話を聞くと、クラードはたいそう驚く。
「影リンリンゴが? いやでもなんでそいつがここにいる?」
「私もそれが分からないんだけど」
クラード、フィリーはしばらく言葉を交わすが、納得する答えは出なかったらしくどちらも小さく首を振った。
「……もしかしたら魔王の使いか"お客さん"でも潜んでいるのかもな」
意味深なその言葉を、
クラードはため息交じりに吐いた。
「ただ全員そろったし、今日はいったん引き揚げよう。全員生きているのっていうのは、不幸中の幸いだ」
その言葉に俺を含めた全員が同意した時、その言葉の一つに俺は妙に引っかかった。
不幸中の幸い?
そういえば、俺は運をよくしたはずなのに全然運が良いところがないぞ?
おかしいな……これって俺が悪いのか、いやそれとも他の要因があるのか?
「それでは引き上げる。まだ影狼が出没しているから、集団から離れないように」
その言葉を受け、その場の全員がクラードに続いた。
俺は先の疑問を抱えながら、辺りをちらりと見まわす。
影狼はまだいることにはいるが、数は疎ら。それにもう襲ってくる気配はなさそうだ。
「アキラ、私たちも行こうか」
「ああ」
と、なんともなしに声を上げた瞬間、それが見えた。
ぽつりぽつりと影狼が点在する中。
数体の影狼が群れている、その視界の一部分。
何故か、そこにだけ影狼が集まっていた。
いや、それはただ集まっているんではない。
よく見れば、それは群れているのではなく、何かを囲んでいるようだった。
何を?
そして、その輪の隙間からわずかに見えたのは、白い何か。
「……あれって」
胸騒ぎを覚えた俺はいてもたってもいられずそれに向けて、走り出した。
「……アキラ? って、どこにいくの!?」
近づくにつれ、それは徐々に鮮明を帯びてくる。
俺が先ほどまで見えていたのは足だ。それも小さな、まだ子供のような足。
子供が、影狼に襲われている。
疑問が事実に昇華された瞬間、俺の心臓は締め付けられ、喉がひどく乾く。
一足でも早く着くために、俺は駆ける。
その影狼たちの元へと辿り着くと、俺はこん棒を力任せに振るい、影狼数体を葬り去る。
「おい大丈夫か?」
影狼が倒れ、俺の視界に入ってきたのは、年端もいかぬ少女。
ただその少女は普通ではなかった。
「――え」
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