#22 リンリンゴ?
ぽつりぽつりと視界に点在していた岩。
その一つの岩陰にそれは見えた。
「……鈴?」
岩陰にいたそれは、間違いなく鈴のシルエットをしていた。
その言葉を発した瞬間、フィリーはその方向を眺めながら、ふむふむと頷いた。
そして、先ほど神妙そうな雰囲気と打って変わったかのように、フィリーは嬉しそうに声を上げる。
「アキラ、君がどんな道を歩むのかは分からないけど、少し考えた方がいいかもね――ってことで!」
フィリーは地面を蹴ると、その岩陰へと走り出した。
「リンリンゴは私が討伐しまーす」
その言葉を発しながら、全速力で一目散にその場所へと向かうフィリー。
俺はなんであんなに急ぐんだろうと思いながら小走りでその後姿を追いかける。
「あ~、あと、このツーマンセルの報酬配分は討伐者が9割だから~そこのところよろしくね♪」
疑問は解けたが、その言葉は初耳だった。
「え、そんなこと聞いていないぞ!」
「あれ? そうだっけメンゴメンゴ♪」
そう言いながら、フィリーはさらに加速する。
俺は必死に追いかけるが、なかなか追いつけない――いや、というかこれは。
「ふふふ、攻撃は凄く強そうだったけど、俊敏性はそこまででもなさそうだったし追いつけないでしょ?」
計画通り、予想通りという体で話すフィリー。
確かにこれじゃ追いつけないそうだった。
「……まじかよ」
その言葉を呟きながら、はぁはぁと息を荒げながら走る俺。
フィリーを追いながら、先にいるリンリンゴに向けて視線を巡らせる。
が、その時。
何か違和感を覚えた。
「……まだ、黒い?」
遠目に見えた時はそれが岩影の影響で黒色だと思っていたのだが、
そこそこ近くにきてもその黒色が変わらない。
リンリンゴの体は黄金色に輝いているとクラードは言っていた。
いくら影で黒に染まるかといってここまでの黒色は普通なのか――それはまるでこいつの元々が"黒色"であるかのように見える。
「おい待てフィリー! 何かがおかしい!」
「待てと言われて待つ盗賊がどこにいますか~それに言い訳ならもっとましなものを用意しなよ♪」
そんなやり取りの間にもフィリーはかなり進んでいたらしい。
見ればもう既にその岩陰の目と鼻に、フィリーはいた。
「そいじゃ、いっちょやりますか」
腰元に付けていたタガ―を引き抜くと、流れる様にフィリーはそいつを切り裂いた。
ズバンと小気味の良い音が上がり、そいつは真っ二つになった。
「いっちょあがり……って、え、これ」
そいつを倒すという目標を成功させた割に、フィリーの様子がおかしいと思った瞬間。
それは響いた。
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
金切り音のような音が辺りに響き渡る。
その耳を覆いたくなるような不快音は木霊のようにしばらく反響し、やがておさまった。
「……えらく気持ち悪い音だったな」
リンリンゴの断末魔だったのだろうか。
そんなことを考えながら、フィリーの元へと俺は向かう。
そしてまた違和感。
リンリンゴを倒したフィリーがその場所から全く微動だにせず、口々にぶつぶつと何か言っていた。
「どうしたフィリー?」
俺がそう問いかけると、フィリーは神妙の顔でその言葉を吐いた。
「
「影リンリンゴ?」
意味が分からなかった俺はその言葉を復唱した。
「……そう、さっき私が倒したのがそいつ。姿形は似ているけどリンリンゴとは全くの別物」
フィリーが言うに、そいつはリンリンゴと違い黒い色のモンスターらしい。
フィリーは続ける。
「ただ本来、こんなところにはいないはず」
フィリーは言葉を続けるが、何かを恐れているかのように落ち着きがない。
「災厄をつかさどる場所や災厄のモンスターがいる場所に、それにそこでもめったに存在しないモンスターのはず――いや、今この状況ではそんなことは関係ない」
フィリーは意を決したかのようにこちらを見つめる。
「今の問題は、影リンリンゴを倒してしまうとここにモンスターが出現してしまうこと――それも強力なモンスターが大量に」
どこか悲哀に満ちたフィリーの顔が事の深刻さを伺わせる。
「アキラごめん――君の力を貸して」
フィリーがその言葉を言い終えた瞬間、ナルバッツ平原に異変が起こる。
先ほどまで色が緑だった平原は黒に染まると、そこから空気中に吸い上げられるように黒の塊が浮き始める。
「多分、私だけじゃこれに対処できない」
黒い塊は徐々に形を形成し、それは最終的に狼のような形に変わる。
目が赤く光り、うぅ~という息遣いが聞こえるモンスターが、ここに生まれた。
そして、また一体。また一体と生まれていく。
「……
影狼と呼ばれたそのモンスターが、ナルバッツ平原を覆いつくした。
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