第14話「走り出す時」

 新しい靴に足を入れた時、確かな予感があった。

 私はその感覚を言葉にできなかったから、代わりに自分の鼓動に従う事にした。

 新しい靴を履いたまま、私は会計を済まし、そのまま古い靴を鞄に入れて店を出た。

 と、その瞬間。

 走り出した。 

 この靴は何か私に魔法をかけたように、鼓動を早くさせた。

 ドクドクとなる心臓の音が私に言う。

 走れ。

 走れ。

 走れ。

 ちょうど雨が上がって雲の間から晴れ間が見える。

 歩く人たちは傘をたたんでいる。

 程よく人がいる。

 けれど走るのに邪魔ではなかった。

 私は走った。

 夏が終わる九月の中旬。

 湿度が下がり、空気が少し冷たくなるこの時期。雨上がりの気分のいい空気を思いきり吸い込んで走る。

 少し濡れた肌に風が心地いい。

 走ると言うのは。

 走り出すというのはこんなにも。

 気分がいい。

 走れ走れ走る。

 かたいアスファルトを強く踏み込み。

 腕を振って、足を前へ、前へ、前へ。

 先へ、先へ、先へ。

 夏の終わりに幕を引くように。

 私は全力で走った。

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