第15話「詩を作ると言うこと」

 急に詩を書きたくなって、お気に入りの音楽を再生した。

 イヤホンから流れる音に身を委ね。あふれるままに言葉を紡ぐ。

 青い言葉達。

 夜のしじまの様な韻律で語る。

 音楽がないはずの詩に音楽を聴く。

 切なくなるような、懐かしさ。

 それを描こうと試みる。

 この白紙の上に、幻想を現す。

 誰かが歌っている。

 この詩を。

 かすれた、しかし、透明感のある声で。

 アコースティックギターの弾き語り。

 それだけで十分だ。

 幻想を描くには、それで十分だ。

 雨が降り出す前の、空気が冷たくなっていく感覚を言葉に落とし込みたくて目を閉じ、耳を澄まし、言葉を探す。

 蒼い言葉達が冷たい空気に溶けて吸い込むたびに肺に落ち、吐き出す時に言葉になればいい。

 透明な言葉達を取りこぼさないように、メモ帳に書き込んでいく。

 ペンが澄んだ水に触れるように紙に詩を紡ぐ。

 これでいい。

 これでいい。

 蒼い言葉達は紙の上で仄かに冷たく光り、その数節を口ずさむと、秋の高い空の下に吹く冷たい風を感じられた。

 詩を作ると言う事。

 私にとってそれは幻想を再演することに等しい。

 この幻想を閉じ込めて。

 詩を紡ぐ。

 空気の清とした冷たさを文字にすること。

 それが詩を作ると言う事。

 それが私の喜び。

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