第13話「夏の終わりに」

 夏の空気に冷たい風が混じり始めた。

 蝉の鳴き声が消えていった。

 肌にまとわりつく湿気がいつの間にかなくなっていた。

 夕日が速く沈む。

 夏が終わる兆しがそここちに現れた。

 大きな雲は何処に行ったのだろう?

 太陽の照りつける陽射は?

 美しい夜の月は?

 夏は拭きとられたようにその足跡を消して行った。

 音も無く。

 私は忘れ物をした気分になった。

 この夏のどこかに私が手に入れなければならない何かがあった。

 そんな確信。

 しかし、夏は終わってしまった。

 もう戻れない。

 夏が輝いて見えるのはそのせいかも知れない。

 手に入れ損なった何かが私を呼んでいる。

 夏は宝を隠している。

 そんな予感が夏に色を与える。

 祭の後の寂しさが、何度目かの郷愁を沸き立たせる。

 夏が終わる。

 私は来年も取り逃がすのだろうか?

 決してたどりつけない虹の端を追うように。

 伸ばし手が空をつかむ。

 それでも私は追うだろう。

 夏の隠しもつ予感はいつも輝いているのだから。

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