第12話「青い夕方」

 冷たいカラスがかぁかぁと鳴いている。

 空気はそのたびに冷たくなっていった。

 空は青白い。

 夕方だと言うのに雲のせいで太陽は見えない。

 今にも雨が降りそうだった。

 青い夕方。

 冷たいカラスがかぁかぁと鳴いている。

 こんな日は、傘を持たずに散歩したい。

 夜明け前の様に静かな街に降りて行って。

 夜が来る前に。

 雨が降る前に。

 貌を変えた街に迷い込むのだ。

 カラスたちが空の影の様に黒く黒く飛んでいく。

 かぁかぁと鳴くたびに空気が冷えていく。

 冷たいカラス。

 見慣れたはずの見知らぬ景色。

 青い迷路。

 住宅街は森。

 高層ビルは墓標に見える。

 黒と青の迷路街。

 カラスたちはそれを俯瞰するだろう。

 人間たちの作り上げた、秩序だった混沌の集積を。

 それを見てカラスたちは無表情に鳴く。

 かぁかぁと鳴いている。

 街はそのたびに青く冷たい空気に沈んでいく。

 冷たいカラスが鳴いている。

 かぁかぁと鳴いている。

 夜にカラスが溶けるまで、それは続くだろう。

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