第11話「この本は」

 失くしたと思って買い直した本を掃除した部屋のすみで見つけた。

 普通の人ならば損をしたと思うかもしれない。けれど私はその再会を喜んだ。

 その本は私にとって特別だったからだ。何を言っているのか分からないと思うので説明しよう。

 その本は一回読んだだけでなく、何度も読み返した本だった。しかし、それだけでは特別とまではいかない。

 その本は私がただ読むだけでは飽き足らず色々と手を加えた本だった。どういう事かと言うと、例えばその本には直接メモを取った。例えばそれは引用したいような場所にマーカーを引いた。

 そうだ。

 これは私が読むだけではなく思考をするための道具として使った本なのだ。

 だから私にとってその本は特別なのだ。

 だから損をしたとは思わない。

 久しぶりに再会した友人を祝おう。

 この本は私にとって特別なのだ。

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