第2話「この風を」

この風を書きたい。

 この風を書きたいのだ。

 冬の切るような冷たい風。

 夜の匂いを運ぶ風。

 ここではないどこかを思い出させる風を書きたい。

 物語はいらない。

 登場人物はいらない。

 ただ風を書きたい。

 それが私の書きたいもののすべてだ。

 その言葉の列を見るたびに風を思い出す。

 そんな文章を書きたい。

 冷たい空気が肺に落ちる。

 その心地よさ。

 心の臓腑を穿つ鋭い風。

 その鮮烈。

 その清冽。

 清々しく。

 生きている意味を見出す。

 この風に出会うために生きていたのだ。

 生きていることを強く実感する瞬間。

 それを思い出すいために。

 それを強く思うために。

 私は風を書きたい。

 この風を書きたいのだ。

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