第2話~咲希の目に映る景色~
そうは言っても中々一歩踏み出せないのが人間というものらしいのです。
「咲希~、告白できないままもう、文化祭だよ~…。」
そうなのです。私の学校は文化祭を夏休み明けに開催する。つまりは夏休み前に作ったグループでしかも課題を『完成させた』グループだけがお店に『小説』を『出品』出来る。
「で、でも、今回出品きたのは私達のグループだけだし、な、なんとかなるよ!」
「何言ってんの!もう、うちらのグループが一番奇抜なんだから、お客だって来るよ!文化祭中に告れるわけないじゃん!どうすんの!?」
「う、そ、それは、そうだけどさ…。」
そう、私達の出店は…!
「お~い、そろそろ出て来いよ~!こっちは準備できたぞ~!」
「さ、春斗にこの格好でアピールするよ!」
「え!?あ、ちょっと待って、まだ心の準備が…。」
「はーい!今行くー!」
そう言われて引っ張られたと思ったら目の前にはハルくん達がいた。
「・・・っ!」
さすがに絶句する二人。だって、私、ありえない格好してるもん。…ミニスカートのエプロンドレスなんて、どこで売ってるんだか。
「へっへっへ、可愛すぎて言葉も出ない?」
「ふ、二人とも…。」
夏澄ちゃんがそう言ってようやく夏海くんが反応した!
「ん?夏海どうした?」
「その、スカートが、やっぱ、短すぎるんじゃ…。」
「いやいや、こうでもしなきゃ客引きなんてできないよ、ね?咲希。」
そう聞かれたけど、それどころじゃなかった。
「咲希、そんなの一枚じゃ絶対危ない!変な奴に目つけられるぞ!ほら、俺のジャージはいてろ!」
「え?い、いや、大丈夫だよ!それにジャージはいたら台無しだしさ。私頑張るから、ね?」
「いや、絶対危ない!今からでも変更…」
「だ、だめだよ~!」
「…あっちもあっちで大変だ…。」
夏澄ちゃんがあきれ顔でそう言った。
ハルくん達を説得できたのは文化祭開始時間の30分前だった。幸い、商品を並べるのはハルくん達のお仕事だったから、準備は出来ていた。
「さあ、今回が最初で最後の文化祭になりそうだし、いっちょやってやりますか!」
「そうだね!でも、せっかくなら他の所も見て回りたいかも…。」
夏澄ちゃんと夏海くんが口々にそう言う。夏海くんの言ってることは皆でずっと言ってることだった。
「そうだな、俺もそう思う。でもさ、こう考えてみるのはどうだ?」
そう言ってハルくんは私たちは見る。
「早く今日の分売っちまうっての!そうすれば少しは見に行けるだろ。二人ずつペアで『今日はもう完売しました。』って言うやついれば苦情もそんなこないだろうし。」
「そっか、ハルくんの言う通りだね!そうなるようにみんなで頑張ろうよ!」
私がそう言うと、みんな頷いてくれた。
「よーし、そうと決まれば頑張りましょ!正直、こんな格好してまでクラス代表するんだし、優勝目指すよ!」
そう、私達はクラス代表としてこのお店を出す。皆の期待を背負って。
「おお、元気いいわね。気合十分って感じかしら?」
「あ、朝子先生!おはようございます!」
そこに朝子先生が来てくれた。
「おはよう、春夏(しゅんか)の皆。盛り上がってるわね、これなら、もうクラスの子たち連れてきても良かったかしら?」
そう言って先生はクスクス笑った。『春夏』とは私たちのグループの名前。春の名前と夏の名前、丁度半分ずついるから『春夏』になった。
「そ、それはちょっと…。」
「そうよね、あと10分だし、それくらい待たせるわ。…頼んだわよ、絶対優勝して頂戴!」
『はい!』
先生からの激励にみんなで同時に答える。それに満足そうに頷いて先生は去っていった。
「さあ、いよいよ始まるよ!皆、準備はいいね!」
「もちろん!」
「あったりまえだろ!」
「皆で頑張ろう!」
皆口々にそう言う。なのに、夏澄ちゃんは最後に私に「なんかいい事言って、リーダー!!」なんて…。
「リーダーなんて名前だけなのに…。」
「はい、そう言わないで!ほら、あと5分だよ!早く!」
「う~ん…。そうだね、皆で後悔しないようにがんばろうね!」
私がそう言うと、皆「おーーーー!」なんて言うから、びっくりしちゃった。でも、ほんとにそう思うから。
私も後悔しないように、したいから。
私達のグループの出店とはズバリ『メイドブックストアin花咲』。『花咲学園小説科』伝統のブックストアと、最近はやりの『メイドカフェ』、この二つを合体させたものを出店として生徒会に申請した。クラス代表なので、皆で決めた内容。皆が参加するように先生から「出し物は皆に決めてもらいましょう」と言われてそうなった。しかも衣装まで用意してもらった。ここまでしてもらったんだ。頑張りたい。
そう思ったのってたしか昨日だよね…?
「うそ…?」
「もう、完売?」
私と夏澄ちゃんは呆然とした。だって、今日あと半日残ってるんだけど。
「おいおい、どうすんだよ…。」
「これは予想外すぎてどうすべきかわからないね…。」
ハルくん達もそう言って固まってる。実は昨日は売れ残ってしまって、今日はその分も売らなきゃと少しひやひやしながらやってたのに…。
そんな困り果てる私達を見て笑いながら先生が来た。
「いやあ、お疲れさま。まさか、最短記録たたき出すとは思ってなかったわね。」
「せ、先生…。」
そう言ってると、「あの~…。」と呼ばれた。
「あ、すみません、本日分は完売してしまって…。」
「あ、そうじゃなくて、その、サインが欲しくて…。」
「え、さ、サインですか!?」
私がそう言うと、ハルくんが出てきてくれた。
「えっと、誰のものでしょうか?」
「その、皆さんの…。」
「全員の、ですか?」
さすがにハルくんもびっくりしてた。そうだよね、だって今日がある意味『デビュー』なんだから。
「はい、あの、この物語、すごくよかったです。ファンタジーなのに、ううん、ファンタジーだからこその『切なさ』があって、すごく感動しました。」
「え?もう読み終わったんですか?」
「はい。」
あ、もしかして最初のお客さん?
「列の最前列にいましたから。」
やっぱり、そうなんだ。
「ああ!いつもの、お世話になってます!」
先生がそう言って出てきた。
「え?先生お知合いですか?」
夏海くんがそう聞くと先生は頷いた。
「そうそう、毎年生徒の作品『だけ』買って帰られるの。…この子たちは、合格ラインにいるでしょうか?」
先生は期待のこもった声で聴いていた。もしかすると、この人が一つの判定基準になってるのかな?
「でなければ、わざわざ家から戻ってきません。」
「おお!久々の文化祭での編集長からの合格者出たーーー!」
「え?編集長?」
私がそう言うと、先生は「やばっ!」と言って口を塞いだ。
「いいですよ、もうこの子達は合格です。私がファンになってしまうほどにね。」
「そうですか。良かった。」
「…それはそうと、サインを頂きたいのですが…。」
編集長は恥ずかしそうにそう言った。私たちはようく分からないままサインを書いた。
「ありがとうございます。久々に読者として小説を読ませていただきました。ありがとう。」
「い、いえ、そう言っていただけてうれ、光栄です。」
「こちらこそありがとうございます。」
私とハルくんがそう言うと、後ろにいた二人も頭を下げた。
「頑張ってね、あなた達が来るのを楽しみにしてるわ。」
そう言って編集長さんは帰って行った。しばらく皆固まってしまって、ただ、先生だけが喜んでいた。
「あ、あの、先生。」
「ん?どうしたの?まさか、まだよくわかってないの?」
ようやく整理がつきはじめて先生に声をかけると、先生はそう言ってきた。
「い、いえ、なんとなくわかってきました。つまり、あの方が決めた基準を越えたんですよね?」
私がそう言うと、先生は満足そうに頷いた。
「そう、この『試験』は文化祭の時のみ行われる特別な試験。合格すれば、一年時で卒業、メジャーデビューする事が出来るの。」
「え?それってつまり…。」
「そう、『合格した人』はこのままプロとしてのスタートを切れる。頑張ってね、編集長に認められるなんて、しかも気に入ってもらえるなんてそうそうないから!」
そう言われて私はその場にへたりこんだ。
「お、おい、大丈夫かよ!?」
そう言ってハルくんはしゃがみ込んで私を見た。返事をしようとしたけど、声が出なかった。私が頷くとハルくんが「ほんとかよ。」と言いながら椅子を持って来てくれた。そこに私が座るとハルくんはようやく安心したのか、先生を見た。
「ってことはもしかして俺たち今年度で卒業ですか?」
「そう言うことね。」
そう聞いて夏澄ちゃんたちも理解したのか、顔を見合わせた。
「そう言うことだから、文化祭、回ってきなさい。店番は先生してるから。」
『はい!』
先生に甘えて皆で文化祭を回ることになった。なったんだけど…。
「…あいつら、どこ行ったんだ?」
いつの間にか夏澄ちゃんたちとはぐれてた。連絡を取ろうとケータイを開いた時丁度夏澄ちゃんから電話が来た。
「もしもし、夏澄ちゃん?」
『やっほー!』
「や、やっほーって…」
「夏澄から?」
ハルくんにそう聞かれて頷く。
「ねえ、夏澄ちゃん、どこにいるの?」
『ん?外の出店の処』
「結構離れてるね。」
『そうなの?なら、別行動にしない?』
「へ!?」
『いいじゃん!ある意味チャンスだよ!今のうちに春斗にアピールするんだよ!』
「あ、アピールって…」
『それじゃ、頑張ってね!』
「あ、ちょっと!」
そこで電話が切れた。そんな、どうしよう。
「夏澄のやつ、なんだって?」
「えっと、距離も離れてるし、別行動にしようって…。」
「あ、そうか。えっと、その格好だから、その、一人にしてやんねーけど、いいか?」
「う、うん。ハルくんさえよければ。」
その流れでハルくんと二人きりになってしまった。ま、まあ、大丈夫、だよね。その、できれば後夜祭の約束もしてしまいたい…。
「なあ、どうせなら後夜祭も二人で抜け出そうぜ!」
「うん、いいよ!」
ん?え、ウソ、え?勢いで答えちゃったけど、大丈夫かな?
「え?マジ?」
ああ、ハルくんもすごいびっくりしてる。もう、このまま勢いで何とかしよう!
「うん、じゃあ、片づけ終わったら連れ出してね。」
「おう!当たり前だろ!」
その後も特に変わったこともなく、普通に文化祭を回った。楽しかったな。
そして片づけの時間。ハルくん達は重いものの片づけ。私たちは売り場の掃除。
「ねえ、私、ちゃんと告白できるのかな?」
「は?」
夏澄ちゃんと二人きりになって少し安心したのかぽろっと言ってしまった。
「いや、ハルくんとと後夜祭見ることになって、どうせならそこで告白しちゃいたいなと思って…。」
「え、マジで!やったじゃん、チャンスだよ!」
「う、うん、そうなんだけど…。」
「もう!そんな弱気にならない!」
「そ、そうだよね!うん、頑張るよ!」
「よし、頑張れ!何かあったら胸くらいは貸すよ!」
「うん!ありがとう!あ、私そろそろ行くね!」
「行ってら!楽しんできてね!」
そう言って私たちは分かれた。
「すみません、小説科の三波咲希さんですよね?」
玄関でハルくんを待ってると、知らない人から声を掛けられた。確認する当たり多分普通科の人だと思うけど。
「はい、なんでしょうか?」
「あ、あの、俺、普通科1年の鈴木拓斗と言います。」
「あ、はい。」
なんだろう、ほんとに初対面の人に声を掛けられたんだ。何か用かな?
「その、俺、三波さんに一目惚れしました!付き合ってください!」
「へ!?」
えっと、こういう時、どうしたらいいんだろう?でも、私は…。
「ごめんなさい。」
そう思うとなんだか自然と声が出た。
「私、他に好きな人がいるんです。」
「そう、ですか…。」
そう言ってうつむいてしまった彼に、なんだか私は勇気をもらった。確かに今はうつむいているけど、なんだかすがすがしく見えた。
私も、怖がらずに…。
そう思ってハルくんと合流した。
「ごめん、待ったよね?」
「あ、いや、大丈夫。そっち、終わった?」
あ、あれ、なんかハルくん、微妙な顔してる。もしかして、今の、見られちゃったかな?
「うん、ありがと。それじゃ、連れ出してください。」
ちょっと気になるけど、何も聞かずにそう言った。
「ああ、分かったよ。」
ハルくんも普通にそう言ってくれた。よし、頑張ろう!
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