第1話~春斗の目に映る景色~
春、桜のトンネルを抜けて入学する高校。今年は例年よりもかなりの早咲きで桜は満開。まるで、季節までもが高校入学を祝っているようだった。
思えば、結構あっけなかったな。そう思う。だって、正直この高校に入学出来ると思ってなかったわけで・・・。そう思うとなんか、うん。運が良かったんだよな。
「受け付け、こちらでーす!」
その声のもとへ行き受付を済ませてクラスに行く。隣の席の女子は反対側を向いてて、二人で盛り上がってるから声を掛けにくいな・・・。そ、それでも、今挨拶しないと仲良くなんてなれないよな、うん。ああ、なんでよりによって女子なんだよ~!
そう内心で思いながら声をかけた。
「俺も入れて~」
俺がそう言うと、二人がこっちを見た。う、二人とも、すげー美人・・・。隣の席の子は断然可愛い系の顔だし、向こう側の子は綺麗系だよな・・・。ああ、くそ!
「ども!俺、小牧春斗。好きに呼んで。」
平静を装って挨拶すると、隣の席の子が「あ!」と言った。な、何かまずいことでも言ったかな?そう思って聞こうとしたら、向こうが言ってくれた。
「もしかして、ハルくん!?」
その呼び方を聞いてようやくピンときた。
「え、まさか、咲希!?うっわー、久しぶり、ってか何年ぶり?」
ってか、どんだけ可愛くなってんだよ!誰かわかんねーよ!
「えっと、ハルくんが引っ越してからだから…4年ぶりくらいかな?」
でも、咲希は普通に話してくれる。その事がすげー嬉しかった。
「うわー!すっげーな、それ。こうなるとちょっと感動的かもな~。」
「えー、何々、知り合い?」
二人で盛り上がってると向こう側の子が混ざってきた。
「うん、実は小さいころ家が近くてよく一緒に遊んだんだ。小6の時にハルくん引っ越しちゃって、それから会えてなかっかんだけど…。」
咲希がそう説明してくれる。
「ええ、すごいじゃん!運命ってやつ?」
「う、運命までいかないんじゃ…。」
「いや、もしかしたら本当に…」
これは冗談じゃない。
「もう、ハルくんったらやめてよ!」
でも、咲希がそう言って笑うから、冗談にしておこう。そんな風に思っていると、入学式の時間になった。
俺たちが入学した私立花咲学園は、県内有数の就職率を誇る学園。学校内では、「普通科」「食物科」そして「小説科」がある。私が入っているのは小説科。単に小説科と言ってもこの学校で生み出されるのは単独作家ではない。
ーそう、この学校で生み出されるのは、二人以上で構成されるグループ作家。
「と、言うわけで、このクラスの人たちは、夏休み前までに二人以上のグループを作ってもらうよ~。」
そう言うのは担任の岡崎朝子先生。すごい美人の先生。
「じゃ、そう言うことで今日のホームルームはここまで。大体この学校のことは分かっただろうし、明日からは授業が始まるから準備してきてね。」
そう言って先生は出ていてしまった。
とりあえず、グループを作んないとだし、クラスの人とも仲良くならなきゃいけねーよな…。
「グループっか…」
俺がそう言うと、咲希はこっちを見た。なんで、聞こえたんだよ!そう思って小さく笑う。
「知ってるだろ?俺の社交性スキル。」
「…小学校時代、友達3人伝説…。」
マジで覚えてたのかよ・・・。
「そ、しかもお前とカエデさんを入れて、な。」
そうおどけて言ってからもう一度頭を抱え込んだ。
俺は昔から人前に出ると緊張して一言も話せないどころか咲希の後ろに逃げてしまうことが多かった。だから、俺のこの症状は咲希が一番よく知ってるはずだ。しかも、咲希も人見知りだしな。
「あれ、でも、今朝普通に話しかけてくれたよね?」
咲希はそう言って少し期待を持った目を向けてきた。
「…見えてなかったならいいけど、冷や汗で背中びっしょりだったんだぞ?」
「…そっか、治んなかったんだ。」
そんな簡単に治るか!
「ああ、どうしよう!…あ、そうだ!」
そう言って顔を上げた。咲希はもう分かったような顔をした。
「な、なあ、咲希、俺と、グループ作んないか?」
咲希は「そう言うんじゃないかと思った」と言いたげな顔をした。
「それじゃ、ハルくんのために…」
そう、一応咲希は俺の姉代わりみたいな立ち位置だからそう言って他の人と組ませようとしてる。そんな事分かってるさ。でも、譲れない。
「だから、言ったじゃん!『グループを作んないか』って。」
「…?どういうこと?」
咲希はそう言って首をひねった。こういうのは昔から俺の得意分野なんだよな~。
「二人でグループ作っといて、さらに何人かに声かけるんだよ。そうすればまだ難易度易しいじゃん。」
「なるほどね!それなら、ハルくんの社交性スキルを磨けるもんね!」
ついでに咲希も気が楽になってわけだ。言わないけど。
「そう!グループも出来て、一石二鳥!」
「えー、何々二人で組んだの~?」
そう言って夏澄が入ってきた。
「うん、二人とも人見知りだし、丁度いいかなって。」
やっぱり咲希が説明してくれる。昔と同じ流れですごい安心するんだよな。
「ええ!私も咲希と組みたかったのに~!」
「お?じゃあ、入るか?」
でも、たまには俺にもやらせてくれよ!
「いいの!?」
「別にルールは二人以上ってだけだしありだろ。」
俺がそう言うと、2人して満面の笑顔を向けてきた。
「やった!んじゃ、改めてよろしく!」
「ああ!」
「よろしく、夏澄ちゃん!」
咲希もすげー嬉しそうだから、結果オーライじゃね?
この学校は全寮制で、しかも同じクラスの人と同じ部屋になる。まあ、当たり前なんだけど。
そんなわけで、クラス割が発表されるまで、つまり入学式が終わるまで部屋割りは発表されない。荷物はすでに部屋に運び込まれてるからいいんだけど、俺にとってはそれだけじゃなくて・・・。
「あ、あたしと咲希、同じ部屋なんだね!」
反対側の掲示板、つまり、女子寮の掲示板からそんな弾んだ声が聞こえた。
「あ、ほんとだ!良かった、夏澄ちゃんと一緒で!」
部屋割り発表の掲示板を見て咲希達ははしゃいでいた。
うらやましい・・・。普通に知ってる人と同じ部屋なんて・・・。
俺は、どうなんだろうか?そう思って掲示板を見てると、後ろから声を掛けられた。
「おーい、春斗!」
そう言ってきたのは『上島夏海』。中学の同級生で、高校も一緒という親友みたいな存在だ。まあ、俺だけが思ってるかもしれないけど。
「夏海!どうした?」
「どうしたも、なにも、俺達同じ部屋!」
「げ!マジか!」
「マジだよ!もう、僕と一緒ってそんなにいや?」
ちなみに、オネエではない。ただ、この喋り方なだけだ。上が姉しかいないらしい。
「いやじゃねーけど、さすがにここまで来るとこえーなって・・・。」
「それは同感だね。まあ、とりあえず行こうか。早く荷ほどきしたいし。」
「ああ。」
そう言って俺達は部屋に向かった。咲希といい、こいつといい、俺ってもしかして運がかなりいいのか?
荷ほどきし始めてしばらくは無言で黙々とやってた。
「ねえ、春斗。」
「ん?どうした?」
「腹減った・・・。」
その声に振り向くと夏海が「もうだめだ・・・」と言いそうな顔をしてた。
「お、おう、なら食堂行くか?」
「本当!?やった!行こう!」
そう言って夏海は目を輝かせてから「あ!」っと、言った。
「そう言えば、朝から春斗と話してた人達。」
「ん?ああ、咲希と夏澄の事?」
「そうそう!あの子達も誘わない?」
「お、いいな、それ!ちょっと連絡してみるか!」
そう言ってメールを開く。連絡先は交換済みだから、問題はない。
返事はすぐに来た。
『今から大丈夫かな?』
お、向こうも一段落つくころか?
「今からでも大丈夫かってさ。」
「ん?いいよ!僕もお腹ペコペコ」
「おお、んじゃ準備しとけよ~。さすがに部屋着で食堂には行かないだろ?」
「わかった!」
夏海が着替える間に連絡をとる。
『了解!あ、同室のやつも一緒でいいか?』
『うん、もちろん!こっちも夏澄ちゃんと一緒でいい?丁度同じ部屋なんだ。』
『OK!んじゃ、食堂で待ってるな。』
『はーい!』
「準備出来たよ!」
そう言われて振り返ると、かなり気合いの入った格好をした夏海がいた。
「・・・なあ、普段着でいいと思うぞ・・・?」
「え?べ、別に気合いなんて入ってないよ!これが普通だよ!」
「いやいや、そんな事ないだろ~!・・・もしかして、あいつらのどっちか狙ってんの?」
「な、ななななななに言って!」
いや、態度に出過ぎだろ。ここは少しからかってみる。
「へー、そうなんだな!お前の好みもうちょっと違うかと思ってたわ。」
「え、ちょ、だから違うって!」
「いや、動揺しすぎ。俺とお前の秘密にすっから・・・。」
「ほ、本当!?絶対誰にも言っちゃダメだよ!」
「はいはい、言わないから・・・。で?」
「で?」
「いや、そうは言ってもどっちが好みか気になるからよ。教えてくれ!」
「え、ええ!そんな!」
そう言って夏海は困惑する。夏海はどっちなんだろうか?
「いいじゃん!教えろよ~!」
「うう、誰にも言わないでね。」
「おう!」
やっと聞ける。
「あの、春斗の2つ隣の人・・・。」
「夏澄?」
「うん、その人。明るいし、きれいだし、いいなって・・・。」
おお、こりゃ本気で惚れてるな。たしかに、夏澄はモテるだろうな~。
「は、春斗こそ・・・。」
「え?」
「春斗こそ、隣の人と話してる時、やけに楽しそうだったけど、どうなの?」
「は、はあ!?なんで俺の話に!」
「あ、図星なんだ。」
「・・・っ!あ、そ、そろそろ準備あいつら食堂つく頃じゃね?ほら、気になる女性に少しアピールしようぜ!」
そう言って俺は部屋を立ち上がった。
「あ、逃げた!もう、後で話てよね!」
「はいはい!」
ああ、なんでこういう時だけ察しがいいんだよ、こいつ!
食堂では、普通に話した。でも、咲希がいつもより夏海と話しててもやっとした事はここだけの話にしておこう。夏海も、夏澄の前だと緊張してあまり話していなかった。
俺と咲希だけが、自然に話したのがすげー嬉しかったんだ。
「で、やっぱり好きなんだよね、咲希ちゃんの事。」
唐突にそう言われたのは夏休み前。グループも咲希、夏澄、俺、夏海の四人グループに決まった頃だ。
最近静かだと思ってた俺が馬鹿だったのか?
「はあ、お前は・・・。」
「答えて。」
えらく真剣な様子にどうしたのかちょっと気になった。
「どうしたんだよ、えらい真剣だな。」
「ちゃかすのやめて!」
「ああ、はいはい、分かったよ。んな怖い顔するな。」
そう言って夏海に向き直って言った。
「そうだよ。ずっと前から好きだよ、咲希の事。」
「・・・やっぱり。」
「で?これがなんで重要なんだよ。」
俺がそう聞くと夏海は頷いた。
「重要だよ!だって、この先どれくらい僕達に時間があると思ってるの!」
「時間?」
「…確かに2学期になればグループでの活動が主になって、うまくすれば1年で卒業できるって言う学科なんだよ!ぐずぐずしてたら誰かに取られちゃうよ!」
そう、夏海の言うとおり。それに関しては少し焦ってる。
でも・・・。
「勇気がねえんだよ。」
そう、結局のところはこれだ。勇気があればとっくに告白してる。それこそ、好きになったときに。
「え?春斗にも勇気がなくて出来ないこと、あったんだ。」
「当たり前だ、俺はお前にとってどこの仙人なんだよ。」
俺がそう突っ込むと、夏海は「そうだよね。」と言った。
「でも、まあこれからいっぱいイベントあるしね。学園祭、夏祭り、小説科限定のクリスマス会に新年会…あげたらきりないよ!僕も勇気ないけど、どっかにチャンスはあるはず!」
「おう!そうだな!たまにお前は頼もしく見えるぜ!」
「ふっふっふ、そうでしょ?って、ええ!『たまに』なの!?もっと頼もしいときあるよ~!」
そう言って馬鹿笑い。うん、いつもの俺達だ。この調子なら、告白も夢じゃないんじゃね?そう思った。
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