希望の花咲く春に

雪野 ゆずり

第1話 ~咲希の目に映る景色~

 春、桜のトンネルを抜けて入学する高校。今年は例年よりもかなりの早咲きで桜は満開。まるで、季節までもが高校入学を祝っているようだった。

 この高校に入学が決まって、約2か月。なんだか長かったようで、考えてみたらかなり短い期間。これで、ようやく高校生なんだってそう思うとなんだか感慨深いな…。この感情を一言で表現することができたら、そう思う。今度調べてみよう!

「受け付け、こちらでーす!」

 その声のもとへ行き受付を済ませてクラスに行く。席に着くと、いきなり隣の女の子に声を掛けられた。

「おはよー!」

「え、あ、お、おはよう…。」

 あまりに突然+私の人見知りスキル発動でかなり動揺して変な返しをしてしまった。でも、相手は気にしてなかった。

「私、大原夏澄。よろしく!」

「あ、み、三波咲希です。よ、よろしく。」

「アハハ!そんなにこわがんなくていいに~。あ、人見知り?」

 その声にこくんと頷くと「そっか~。」と言う優しい声。

「ま、どっちにしろそんな急に仲良しなんて難しいと思うし、ゆっくり慣れていってね。」

「ありがと、大原さん。」

「夏澄でいいよ~。」

「…夏澄ちゃん。」

「うん、そのほうがしっくりくる。改めてよろしく、咲希ちゃん。」

 その後も、二人で話してるといきなり、「俺も入れて~」と言う声が聞こえた。振り返ると、後ろの席にきれいな顔の男の子がいた。でも、どこかで会ったことあるような…?

 私たちがそのまま固まってると、その人は恥ずかしそうに笑って言った。

「ども!俺、小牧春斗。好きに呼んで。」

「あ!もしかして、ハルくん!?」

 名前を聞いてようやくピンときた。

「え、まさか、咲希!?うっわー、久しぶり、ってか何年ぶり?」

「えっと、ハルくんが引っ越してからだから…4年ぶりくらいかな?」

「うわー!すっげーな、それ。こうなるとちょっと感動的かもな~。」

「えー、何々、知り合い?」

 ハルくんと盛り上がってると、夏澄ちゃんが聞いてきた。

「うん、実は小さいころ家が近くてよく一緒に遊んだんだ。小6の時にハルくん引っ越しちゃって、それから会えてなかっかんだけど…。」

「ええ、すごいじゃん!運命ってやつ?」

「う、運命までいかないんじゃ…。」

「いや、もしかしたら本当に…」

「もう、ハルくんったらやめてよ!」

 そんな風に笑っていると、入学式の時間になった。


 私たちが入学した私立花咲学園は、県内有数の就職率を誇る学園。学校内では、「普通科」「食物科」そして「小説科」がある。私が入っているのは小説科。単に小説科と言ってもこの学校で生み出されるのは単独作家ではない。

ーそう、この学校で生み出されるのは、二人以上で構成されるグループ作家。


「と、言うわけで、このクラスの人たちは、夏休み前までに二人以上のグループを作ってもらうよ~。」

 そう言うのは担任の岡崎朝子先生。すごい美人の先生。

「じゃ、そう言うことで今日のホームルームはここまで。大体この学校のことは分かっただろうし、明日からは授業が始まるから準備してきてね。」

 そう言って先生は出ていてしまった。

 とりあえず、グループを作んないとだし、クラスの人とも仲良くならなきゃ…。

「グループっか…」

 その声機振り向くと、後ろでハルくんが途方に暮れてた。私のその視線に気づいてハルくんは小さく笑った。

「知ってるだろ?俺の社交性スキル。」

「…小学校時代、友達3人伝説…。」

「そ、しかもお前とカエデさんを入れて、な。」

 そう言ってまた頭を抱えてしまった。

 ハルくんは昔から人前に出ると緊張して一言も話せないどころか私の後ろに逃げてしまうことが多かった。

「あれ、でも、今朝普通に話しかけてくれたよね?」

「…見えてなかったならいいけど、冷や汗で背中びっしょりだったんだぞ?」

「…そっか、治んなかったんだ。」

「ああ、どうしよう!…あ、そうだ!」

 そう言って顔を上げたハル君の顔を見て、何となく言いたいことが分かった。

「な、なあ、咲希、俺と、グループ作んないか?」

 …やっぱり。

「それじゃ、ハルくんのために…」

「だから、言ったじゃん!『グループを作んないか』って。」

「…?どういうこと?」

 私がそう言うと、ハルくんは得意げに言った。

「二人で作っといて、さらに何人かに声かけるんだよ。そうすればまだ難易度易しいじゃん。」

「なるほどね!それなら、ハルくんの社交性スキルを磨けるもんね!」

「そう!グループも出来て、一石二鳥!」

「えー、何々二人で組んだの~?」

 そう言って夏澄ちゃんが入ってきた。

「うん、二人とも人見知りだし、丁度いいかなって。」

「ええ!私も咲希と組みたかったのに~!」

「お?じゃあ、入るか?」

 ハルくんがそう言うと夏澄ちゃんは「いいの!?」と聞いてきた。

「別にルールは二人以上ってだけだしありだろ。」

「やった!んじゃ、改めてよろしく!」

「ああ!」

「よろしく、夏澄ちゃん!」

 そうして私たちのグループができた。結構適当だけど…。でも、これから楽しくなりそうだな!


この学校は全寮制で、しかも同じクラスの人と同じ部屋になる。まあ、当たり前なんだけどね。

 そんなわけで、クラス割が発表されるまで、つまり入学式が終わるまで部屋割りは発表されない。荷物はすでに部屋に運び込まれてるからいいんだけどね。

「あ、あたしと咲希、同じ部屋なんだね!」

「あ、ほんとだ!良かった、夏澄ちゃんと一緒で!」

 部屋割り発表の掲示板を見て私達ははしゃいでいた。

「じゃあ、行こうか!早く荷物まとめないと!」

「うん、そうだね!」

 そう言って私達の部屋に向かった。そういえば、ハルくんはどんな人と同じ部屋になったのかな?

 部屋に入ってまず私は一枚の写真を貼った。

「それ、もしかして…?」

「そう、小さいころの私達の写真。」

 そこには、小さいころの私とハルくん、そしてカエデさんが写ってた。

「私の、憧れの人、なんだ。」

 そう言ってカエデさんをそっとなぞる。とても優しくて、とでも一生懸命だった人。

「病気で、私達が小さい時に遠くに行っちゃったの。これ、その時に撮ってもらったんだ。今でも、カエデさんみたいに、誰かを笑顔にできるようになりたいって思うんだ。」

「へえ、いいね。目標があるって。」

「えへへ、ありがとう!」

 それからしばらく、荷物の整理をして、一息ついてケータイを見ると、はるくんから連絡が来てた。

『夕飯いつ頃食べる?良ければ一緒に食べようぜ!』

 その連絡が入っていたのが、ほんの少し前。

「ねえ、ハルくんが夕飯一緒にどう?って。」

「お、いいね、丁度お腹空いてたんだ!」

「じゃあ、OKってことでいい?」

「うん、ちょっと準備するね。」

「はーい!」

 そう言って私はハルくんに『今から大丈夫かな?』と送った。

 返事はすぐに来た。

『了解!あ、同室のやつも一緒でいいか?』

『うん、もちろん!こっちも夏澄ちゃんと一緒でいい?丁度同じ部屋なんだ。』

『OK!んじゃ、食堂で待ってるな。』

『はーい!』

 そう返信して、私も軽く着替える。さすがに、部屋着じゃ外出れないよね。

「準備OK!咲希も行ける?」

「うん、ハルくんの同室の人も一緒みたいだけど、いいよね?」

「もっちろん!じゃあ、行こうか!」

「うん!」


食堂の入り口の所にハルくんはいた。隣の人が同室の人、かな?

「ハルくん、おまたせ!」

「お、咲希ー!そんな待ってないぞー、な?」

 そう言ってハルくんは隣の人を見る。

「うん、そんな待ってない。…で、この人が幼馴染の子?」

「そうそう。…とりあえず、飯頼んでからにしねえ?俺、もう腹ペコなんだよ。」

「私もー!もう、お腹ぺっこぺこ!!」

 そう言ったのは夏澄ちゃんだった。二人が先頭になって私たちは食堂に入った。


 各々ご飯を持って並んでるとき、夏澄ちゃんが声をひそめながら話してきた。

「ねえ、二人とも、めっちゃイケメンじゃない?」

「うん、かっこいいよね。二人で立ってるとモデルさんみたいだし。」

「分かる、絶対街中で見とれて立ち止まるよね!」

「そうそう!」

「…なあ、なに話してんの?」

 いきなりハルくんに声を掛けられてすごいびっくりしちゃった。

「う、ううん、大したことじゃないよ!ね?」

「うんうん、気にするようなことじゃないって!ああ、それよりほら、順番、来たみたいよ!」

「お!ほんとだ!すいません!」

 ハルくんが前を見たタイミングで二人でため息をついた。続きは部屋までおあずけかな…。


「んじゃ、改めて。」

 全員ご飯を受け取って席に着いた時に話が始まった。

「こっちの小さいほうの女子が『三波咲希』。俺の幼馴染。で、その隣が『大原夏澄』。」

「ち、小さいは余計だよー!」

 私がそう言うとハルくんは「事実だろ?」って言って笑った。そりゃ確かに事実だけどさあ…

「で、俺の隣が俺の同室仲間の『上島夏海』。」

「その名前、あんま好きじゃないな…。」

「へえ、夏海くんか。よろしくね!」

「…よろしく。」

 その後もしばらく雑談した。ほんとに他愛のない話。それだけで楽しかった。だって、ハルくんといられたのだから。


「ねえ、咲希って春斗のこと、好きでしょ?」

 そう夏澄ちゃんに言われたのは、そろそろ学校も慣れてきてそう言った浮かれた話を耳にするようになったころだった。

「へ!?」

 正直、図星だったから、すごいオーバーリアクションになってしまった。おかげで夏澄ちゃんにバレバレだけど…。

「その反応は図星ね?」

 何も言わずこくんと頷く。

「やっぱり!もう、バレバレだよ!」

「え、ウソ!」

「ほんと。まあ、肝心のご本人様にはばれてないみたいね。」

「あ、そうなんだ。良かった…。」

 私がそう言うと、夏澄ちゃんはグイッと近づいて来た。

「良くないよ!これからどんだけイベントあると思ってんの!?学園祭、夏祭り、小説科限定のクリスマス会に新年会…あげたらきりないよ!そんなんじゃ持ってかれるよ!」

「そ、そんなことわかってるよ~」

「分かってない!…いい?確かに2学期になればグループでの活動が主になって、うちらなんてうまくすれば1年で卒業できる、そういう学科なんだから、ぐずぐずしてたら出遅れるよ!」

 そんなことわかってる。私より可愛い人、綺麗な人なんて、この学園にはいっぱいいる。早くしないと、この思いすら伝えられないかもしれない。それくらい、分かってるけど…。

「…告白する勇気がないんじゃ、仕方ないじゃん…。」

「あ…。」

 そう、これは私の問題なんだ。勇気がないんだもん。何とかしたいのにできないんだ。

「そう、なんだ…。ああ、もう!」

「か、夏澄ちゃん!?」

 夏澄ちゃんが叫びながらベッドに倒れこんでびっくりした。

「だ、大丈夫?」

「うう、大丈夫~。」

 そう言って夏澄ちゃんは起き上がると、私をしっかり見た。

「咲希の気持ちが分かって良かった。私、全力で協力するね!」

「ほ、ほんと!?」

「ほんとほんと!がんばろ!」

「うん!夏澄ちゃんと一緒なら頑張れる気がする!」

「よし!その意気だよ!」

 そう言って夏澄ちゃんに言ってもらえた。よし、がんばるぞー!

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