透明人間

9741

透明人間

 トオルは透明人間になった。 

 怪しげな通販サイトで買った透明薬と透明解除薬。面白半分で購入した薬が本物だったのだ。 

 透明になったトオルは解除薬を机に置いたまま、外へと走った。 


 透明になれば、何でもし放題。何をしようか、ワクワクしながら考えるトオル。 


 手始めに彼は、切符を買わずに電車に乗ってみることにした。まるでハードル選手のように改札を飛び越えるトオル。


「どうせ乗るなら新幹線に乗ろう」 


 そう言ってトオルは、新幹線が来るであろう7番線ホームの白線の内側に立つ。 

 まもなく電車が到着するアナウンスが流れる。 


 その時だった。 


 誰かがトオルにぶつかった。そこに透明なトオルがいることに気付かなかった誰かさんが、彼にぶつかったのだ。 


 白線の向こう側へとトオルの身体は飛び、彼は新幹線に轢かれた。 

 バラバラになるトオルの身体。飛び散る血しぶき。 


 だが彼はまだ生きていた。 

 身体に激痛が走っているが、彼はまだ死んでいなかった。 


 トオルは周りの人間に助けを求める。 

 だが誰も気付かない。 

 それもそのはず、トオルは透明人間。バラバラになった身体も飛び散った血も透明。だれも人身事故があったことに気付かない。 


 結局、トオルは誰にも気づかれることなく、息を引き取った。

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