第12話 稲を刈ろう!
秋になり、稲の穂が垂れた。
田んぼ一面金色というべきか。こうなると人々に秋を感じさせる。
米農家にとっては、一日中田んぼへ向かわなくてはならないが、収穫できる喜びを感じさせる季節である。
千春の家でも、稲刈りが始まった。家族総出で行う作業だ。
土曜日の朝9時。父と祖母は稲刈りの準備をしている。ほかの農家と共同で使用するコンバイン――稲を刈るためのもの――を計画的に使用しなければ、後で使う農家が困ってしまう。天気予報ともにらめっこしなければならない。雨が降ってしまえば、雨の重みで稲が倒れてしまう。そうすると、穂も雨で重くなり、コンバインで刈りとり、穂の中身がスカスカなものとしっかりつまったものを選別する際に区別できなくなってしまい、コンバインの故障へつながる。さらに、雨で地面もぬかるんでしまうのも作業に支障が出る。そのため、雨の時には収穫することができないため、天気に注意する必要がある。
作業をするのも注意する点がいくつかある。田植え同様に屋外での仕事がずっと続く。熱中症に注意が必要であるし、稲を刈ると、様々な虫やごみなどが飛ぶ。また、ただの稲ではあるがただの紙同様に手などを切ってしまうことがある。ほかにもコンバインに巻き込まれてしまわないように、注意しなければならない。巻き込まれて死んでしまう可能性がある。
千春の父もつなぎを着て、大きな麦わら帽子をかぶり、長靴を履いてコンバインに乗り込んだ。エンジンをかけると、トラクター同様に大きな音を立てる。この音があらゆる田んぼで聞こえる。そして、父はコンバインに乗って田んぼへ向かってでていった。祖母は鎌などの道具を自転車のかごに入れ、同様にでていった。
「千春、起きてるわよね? ママも手伝うんだから、留守番よろしくねー」
千春の部屋の扉を開け、母が現れた。デジャヴだろうか。父といい、母といいノックもなしに思春期の娘の部屋に現れる。
千春はまだベッドの中でコンバインの音を聞きながらうとうとしていたが、母の行動に少しイラッとしたものの、留守番をするべく起き上がった。
「はいはい。 バイバイ。 いってらー」
「まだ行かないわよ。 呼ばれたら行くんだから」
とりあえず起こしに来ただけのようで、母はそう言うと千春の部屋から出て行った。
(稲刈りねえ……忙しそ)
窓を眺めながらそう思った千春は、着替え始めた。
リビングへ行くと日焼け対策ばっちりの母がガラパゴス携帯をテーブルに置き、チラシを見ていた。
「ママ、ご飯ー」
「電子レンジの中に入ってるし、ご飯もあるから好きに食べなさい」
「ふーい」
自分の茶碗を手に取り、ご飯をよそっていると母の携帯が鳴った。
「はやっ! もしもし~うんうん、はーい」
返事をしてすぐに通話を切る。
「もう終わったの? はっや」
「終わったっていうより、もうコンバインいっぱいになるから来いって感じよね~まだまだ終わらないわよ」
「はいはい、いってら~」
「食器は洗っときなさいよ」
母はそういうと、軽トラックの鍵をとって出て行った。母は刈り取った米を集荷場へ運ぶ。祖父がやっていた仕事を母が引き継いだ。母を見送ると、千春はご飯とおかずを並べて遅めの朝食をとることにした。
(みーんな忙しそうだなあ……何しようか)
家族はみんな稲刈りで忙しい。姉の美咲は土曜日にも関わらず、朝から学校へ行ったようで家にいない。留守番がいれば、わざわざ家に鍵をかける必要がなく、手間が省ける。留守番がいないよりはいたほうが楽らしい。
しかし家族が忙しい中、自分だけだらけているのも申し訳ない。ただ留守番しているのも嫌だ。なら祖母のように鎌で稲を刈るのを手伝おうかと考えた。
(鎌で刈るってどうやるんだ?)
そんな疑問が生まれたため、自分のスマートフォンでやり方を調べることにした。すると該当するサイトがすぐに見つかった。そこにはしっかりやり方が書いてあり、文章の最後に100m×10mの面積の田んぼであれば大人一人で2日かかると書いてあった。
(2日って……昔はそんなかかってたのかー……機械があってよかったな)
コンバインのような機械が出る前は鎌で刈っていたであろう。一人ではやらなかっただろうが、そうとうな時間がかかるはずだ。何度目かもわからないが技術の進歩があってよかったと感じた。
千春は小学生のとき、学校の授業でバケツでお米を育てたことがある。そのときの教師役として千春の祖父が教えていた。なのでうっすらとだが、鎌で刈った記憶はあった。千春の学年は60人いたが、60人分の収穫したお米では量は少なく、祖父が持ち込んだお米を足して、おにぎりパーティーを行った。
その時を思い出してみた。お米の世話は先生や祖父が行っており、いつの間にか成長したが、鎌で刈るとき、なかなか刈り取れず、苦労した。そして刈った稲には穂がついたままである。稲と穂を分けなくてはならない。そのため、かなり昔に使っていた『千歯こき』という道具を用いて、手動で稲と穂を分けた。
そこまでの記憶しかないが、刈り取るだけでも大変なのに、その後の稲と穂を分けるその作業に加えて、実が詰まっていない穂を除外する作業までをコンバインで行うことができるのであるから、農業も楽になってきている。将来は全自動で作業ができるようになり、人力で行うのは機械を運ぶことだけになるのではないだろうかと思う。
稲刈りについて調べていくことに集中していると、母が戻ってきた。
「ただいまですーってまだ食べてるの?」
「食べきったけど?」
「洗っておきなさいよーママ、洗濯物干さなきゃ」
朝食を食べ、そのまま調べていたので、食器はそのままであった。母は片づけるように言うと、洗濯機から洗った衣類を取り出し、干しに向かった。
調べるのをやめ、食器を洗おうとすると、母がドタバタと千春の元へ戻ってきた。
「まーた呼ばれちゃったから、行ってくるわね~」
「はいはい、いってらー」
結局洗濯物を運ぶことしかできてないのではだろうか。母は再び軽トラックで出て行った。
食器も洗い終えると、再び調べ始めた。しかし、稲刈りを手伝うと留守番いなくなってしまうし、ほかのことを手伝ったほうがいいのではないかという疑問が生まれた。
(……お昼作ればいいんじゃね? そうだ、みんなのご飯を作ろう!)
稲刈りについて調べるのではなく、簡単にできるレシピを調べ始めた。料理は好きではない千春だが、家族のためと考えればできる気がした。
☆
お昼を過ぎると、父と母と祖母が帰ってきた。
千春はそれを笑顔で迎えた。
「見て! できたの! どうよ」
テーブルの上にはよそられたオムライスがあった。
「千春が作ったん? 変なもの入れてないだろうな? 雨降らないよな?」
料理をしない千春が突然料理をした。天気に左右される稲刈りを行っているので、いつもと違うことをした千春に驚き、雨が降らないかと父は心配した。
「失礼な! ちゃんと作れますよーっだ。 そんなこというなら食べなくていいですー」
「悪かったって。 腹減ってるんだよ」
「千春も珍しいことをするもんだねい。 千春がこせるなんてねい」
「んもう、ばあちゃんまでー!」
父は汚れたつなぎを脱いで手を洗い、席につく。母も祖母も手を洗って席に着き、みんなそろって昼食となった。
「どうどう? おいしすぎるでしょう? 私が作ったんだもんね!」
パクパクと食べる父の隣に座って食べる千春はニヤニヤしならが父に言った。
「うーん、まあ、普通かなー」
「うっわ、ひっど」
父の味の感想を聞いた千春はむすっとした顔をした。
「パパはそういうけど、おいしいわよ」
「千春が作ったものなら何でもおいしい」
父の感想に対して、祖母と母は褒めた。たぶんこの二人は何を作ってもおいしいというだろう。
ワイワイしながら昼食を取り終えると、稲刈りを再開するため田んぼへ向かっていった。千春はその姿を見送った。その後今日の分の稲刈りを終わらせて家に戻ってきたときには、すっかり日が沈んでいた。
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