ー 3 -

 しばらく、連絡をする暇が無くて。

 電話もこないし。

 まぁ、忙しいんだろうとさして気にもしなかったけど。

 これは、予想外だった…。


 1ヶ月ぶりに電話をしてみた。

「もしもし?」

 いつものように切り出そうとして、声がいまいち乗ってないことに気が付く。

「どうかした?」

 聞いてはみれど、歯切れが悪い。

「聖?」

 しばしの沈黙。

 そして。

『…もう……会わないようにしよう』


 言われた言葉は、予想外。


「え…?」

 どうして。

『こないだ……キスマーク、つけたよね?』

 言われて。

 思い当たり。

 ――――凍りつく。


 それだけで?


『あれで、彼氏にばれちゃってさ。これから、あーいう事されると困るし…』

 ごめんと、電話の向こうの声が聞こえる。

『信用、できない…』

 ごめんと再び言われて…我に返ったときは、すでに電話は切れていた。


 それだけで?


 あっさりと壊れる関係か。

 その程度。

 …その程度?

 何かがおかしい。

 自分の中で。

 何かひとつ、かみ合ってない。


 お互い別に相手がいて。

 だから、恋人じゃない。

 ヒミツの関係。

 普通じゃない。

 そう、本当だったら、これがアタリマエなんだ。

 お互い、跡はつけないのが暗黙の了解。

 だって、そうだろ?

 お互い別に、相手がいたんだから。

 そう。

 だから、これは俺が境界線を踏み越えた。

 オレノセイ。

 自分のせい。

 ………どうして?


 何も知らない相手じゃないか。

 何であんなに、腹が立った?

 歯車が、どこかでズレテイル。



 別に、会わなくなっても変わらない日常。

 適当に、付き合って。

 仕事して。

 学校へ行って。

 ただ。

 あいつと会うことがなくなっただけ。

 それだけ。

 ……なのに。


 2週間ばかり、時間が過ぎた。


 いつでも会えると思ってた。

 そんなときは、あっという間。

 1ヶ月会わなくても。

 連絡しないでも。

 別に、なんとも思ってなかった。

 でも。


何も知らないことを知る。


 電話をかけるのは簡単だけど。

 拒絶されたら。

 ―――恐怖。


 ナニモ、シラナイ。


 どこに住んでいるのか。

 家族は。

 学校は。

 連絡先。

 生活。

 ―――どれも、わからない。


 今までずっと、なぁなぁで。

 恐怖とか。

 痛みとか。

 適当にあしらって、避けてきた。

 ずるい生き方、してきたのだろう。

 だからか。

 こんなに、拒絶が怖いのか?



 落ち着かない。

 歯車が合わない。

 かみ合わない。

 落ち着かない。



 ホシイモノ。

 欲しいもの。

 本当に欲しいもの。


 ホンキにナレルこと。

 ホントの自分をサラセル人。

 ホントの自分をスキになってくれる人。



 ホントに自分が、スキな人。



 探して。

 さがして。

 サガシテ。


 足掻いて。

 あがいて。

 アガイテ。



 本当の自分。

 オプションを見てよってくる、そんな周りばっかりで。

 そんなの気にしないでくれる人なんて。


 そう。



 ヒジリしかいなかった。



 似たような立場だからとか。

 似たような環境とか。

 そういうんじゃなくて。

 ピントが合ったのが、あいつだったってだけ。

 そうか…

 だからだ……


 だから、あいつからのキョゼツがコワイんだ………



 かみ合った。

 見つけた。

 歯車が回る。



 欲しいもの。

 ホシイモノ。



 彼女からの「スキ」。

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