ー 2 -

「ねぇ…」

 はっきり言って暇つぶし。

 新しいコイビトってヤツは、正直あんまり気は合わない。

 たぶん、彼女では。

 ホシイモノは手にはいらない。

「ん?」

 適当に、どっちかっていうと合わしてる。

 だからか、そろそろ潮時かと。

 付き合い始めて1ヶ月。

 そんなことを考え始めた頃。

「この間…何してたの?」

「――この間…って?」

 何を言い出すんだろう、この女は。

 本気で思い当たる事もなく、首をひねる。

「……あなたの友達に、聞いたの。

 ずっと付き合ってる女の子が、居るって……ほんとなの?」

 ああ、なるほど。

 そういうことか。

「――悪いけど俺、詮索されるの嫌い」

 ふい、とその場を立ち上がり、彼女の部屋を後にしかけ。

「ショウ!?」

 一度、振り返る。

「付き合ってたのは、君だけだったよ」

 過去形で、言ってやる。

 彼女が凍りついた。

「まぁ、信用されない事してたのは、俺だけど…ごめんね」

 そのまま部屋を出る。

 背中に何か声がかかった気もしたが、あえてそれは無視をした。

 もうナレタ事。

 最低な事。




 やりたくてしてるわけじゃない。

 ホシイモノが手にはいらない。

 子供っぽい八つ当たり。

 それはわかってる。

 でも…


 あがいて…

 アガイテ。




「思ったよりもたなかったね」

 ホテルの一室。

 ランクをある程度上げてあるのは、プライバシーの問題だ。

 一応、そこそこ名の通るようになってきた最近、用心にこしたことはない。

「お前だってまだ、2週間だろ」

 相手はいつもの女の子。

 たぶん唯一、気が抜ける相手。

 ベッドに彼女を押し倒しながら、唇を重ねる。

 少し強引に、服を脱がせて。

「――…あれ」

 手が、止まった。

「? どうかした?」

 かったるそうに、彼女が言った。

「最近、した?」

 鎖骨近くに刻まれた、俺のじゃないキスマーク。

 たぶん、今の彼氏のものだろう。

「そりゃあするでしょ」

 今更、珍しいものじゃない。

 それは、わかってる。

 ただ……


 何故だか、無性に悔しくなった。



 結局、女を手にしたと思っても。

 ざまーみろ。所詮こんなもんなのさ。

 見たこともない聖の彼氏。

 そいつにむかって、心の中で悪態をついた。

 お前だって、欲しいものは、何一つ手にはいっちゃいないんだ。

 だってそうだろ。

 お前が欲しがってるヤツは、お前に欲しいものを与えちゃくれない。

 ここで俺に、抱かれてる。



 アツイ身体。

 沸騰する脳細胞。

 飛び散る汗。

 甘い吐息。

 何もかも、たぶん形だけなのだろう。

 それでも…だらだらと続く関係。


 ツナガルカラダ。



 規則正しい寝息を立てて、聖がベッドに眠ってる。

 いつまでこんな事を続けるのか。

 いつまで、続ける事が出来るのか。

 長くはないことは知ってる。

 逃げ場所なのか。

 拠り所なのか。

 欲しいものは手に入れられるのだろうか……

 それは果たして、見つかるのだろうか。

 とめどなく考える頭。

 そうじゃないと反する心。

 理性と感情。常識と本能。

 相性の悪いモノタチ。

 汚れた世界に溢れるモノタチ。


 よどんだ視界。

 周りの求めるもの。

 知ってる。

 お前らが俺によってくるのは、オプション欲しさゆえだろう?

 知名度とか。

 金とか。

 優越感。


 誰一人、俺自身なんか見ちゃいないくせに。


「ん……」

 小さく、声が聞こえた。

「聖?」

 目が覚めたのか?

 囁くように問い掛けてみるけど、返事はない。

 寝言のようだ。

 知らずに苦笑を漏らして、額に一つキスをした。

 もう少し位は、寝かせといても良いだろう。

 ずれた掛け布を掛けなおしてやろうとして。

 ―――先ほど目に付いた、キスマークが。

 再び俺の視界にはいる。―――不快感。

 何がこんなに、腹立たしいのか。

 俺の存在一つ知らないで、幸せぶってる奴の事か。

 それとも、知っていても?

 ………腹立たしい。

 心が狭いといわれても。

 抑えられない事だって、ある。



 眠る聖の背中に。

 一つだけ、キスマークを刻んだ。



 これが後から、問題になるなんて。

 その時の俺は思っちゃいなかったんだ。

 ただ、ざまーみろとちっぽけな対抗心に支配されて。

 何でそんなことを考えたのか、自分の事一つ見えていないでいた……

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