ー 4 -

 探していたもの。

 欲しいもの。

 欲しかったもの。


 自分がなることもアル。


 欲しいもの。

 ホシイモノ。

 ずっと、欲しかったもの。



 電話の呼び出し音が鳴る。

 規則的なヒビキ。

 無機質で…永遠かもしれない…錯覚。

 回数は、5回。

 留守番電話に切り替わる。


『発信音の後に……』

 変わらない応答メッセージを聞く。



「今度の土曜日夜…7時に、いつものところで」

 心臓が落ち着かない。

 瞳を閉じて。

 電話を切ろうと、一度、受話器を離しかけ。

 思い直す。

「これで…最後でも、いいから……

 ―――来て」

 そう言い足してから、メッセージを残して電話を切った。


 君が本当に、そう望んでいるのなら。


 俺には、どうしようもないことだから。

 だって、そうだろ?

 君が欲しいと思うから。

 本当に嫌がられたら、俺にはどうしようもない。

 来てくれなかったとしたら。



 多分、これは賭け。





『今度の土曜日夜…7時に、いつものところで』

 留守電のメッセージ。

 聞きなれたはずの声。

 流れ出る音は何かが違う。

 これで終わりかと電話を離しかけ。

『これで…最後でも、いいから……

 ―――来て』

 聞こえてきた言葉に、一瞬だけ、動きを奪われた。


 違う…。


 そこでメッセージが終わる。


 何か、違う。


 頭の中でシグナルが鳴る。

 心の中から警告が聞こえる。

 何かが違うと。

 何が違う?


 自分の中で。

 小さな何かが動き出す。



 ―――最後。



 そう望んだのはあたしで。

 そう仕向けたのは彼だろう。

 だから、離れた。

 ―――そのはずだ。

 …でも。



 どこか、ずれてる。

 何かが知らせる。

 警報が鳴る。


 何が、違う?





 約束の日に。

 予定より早く場所に着いた。

 彼女はまだ来ていない。

 ―――来てくれるかはわからない。

 時間まで、あと少し。


 心臓が鳴る。


 あせる気持ちを落ち着ける。

 深呼吸。

 それでも、落ち着きはしないココロ。


 押しつぶされそうな、不安。


 50分。

 55分。

 58分。

 そして。


 デジタルの腕時計から、時間を知らせる音が鳴る。

 その時。


 彼女が現れた。


 ――――7時。



「――久しぶり」


 そこに笑顔は無いけれど。

 ただ、そう言ってくれることが嬉しかった。


「久しぶり…」

 自分が、今、どんな顔をしているのか。

 見ることは出来ないけれど。

 声は、思ってたよりも落ち着いていた。


「移動、しようか」



「どういう、つもり?」

 移動先は、結局ホテルの一室で。

 まぁ、話をする都合も考えれば、妥当なところと言わざるを得ない。

 こういう時。

 知名度が邪魔をする。


「会わないって言ったこと、忘れてないよね?」

 強い瞳に射抜かれる。

 すべて見透かされそうなヒトミ。


「でも…来てくれただろ」

 自然と、微苦笑が浮かんだ。

「――そりゃあね」

 そういった聖の、真意を図るところは出来そうに無い。

「まぁ、いいや。用事は何?」

 すとんと、ソファに腰掛けて、聖が言う。

 暗に、いつもの用事は受け付けないと、言っているのがわかる。


 さあ。


「―――……」


 最後のチャンスだ。


「告白、って奴」


「…え?」


「――聖が…好きだ」



 ――――言った。



 考えた。

 何があんなに、腹立たしかったのか。

 何であんなに、悔しかったのか。

 ―――嫉妬。

 結論は、すぐに出た。

 ただ。

 俺自身が、それを認めたくなかっただけなのだろう。


 見えるものから目をそむけて。

 聞こえる音に耳を塞いで。

 心の中にフィルターをかけていた。


 傷つくことが痛いから。


「じょ…冗談でしょ?」

 聖はそう言ったが。

 戸惑いの色は消えないままで。

 ――歩み寄ってみる。

 見上げられて。

 ―――揺らぐ瞳。

「冗談じゃ、無い」

 言い切った。

 本当は。

 手も。

 足も。

 今にも、震えだしそうだったのだけど。

「聖が、好き」

 もう一度。

 聖の瞳を見ていった。

 合わさる視線。

 高鳴る心臓。

 聖の瞳に映る俺は。

 どういう風に、見えるのだろう。


 きっと、今は。

 ナサケナイ顔をさらしてる。


 小さく。

 聖の口が開きかけて。

 何か言いかけ…閉じられた。

 困ったように視線がそらされる。


 そんな全てが、愛しく感じた。


 抱きしめて。

 キスをして。

 聖の戸惑いごと、聖を抱いた。




 目が覚めたら。

 聖はいなかった。

 体を起こして。

 ホテルの部屋を見渡して。

 小さく、ため息をつく。


 ふられた?


 ズキリと、胸が痛む。


 ベッドを降りようとして、ふと、サイドテーブルにおいてある白いものが目に映った。

 不審に思う。

 たぶん、部屋に入ったときは、無かった。

 よくよく見れば、何かが書いてある、この部屋に備え付けのメモ用紙のようだ。

 手にとって。


「―――っ」


 心臓が鳴る。

 顔がほころぶ。


 メモには次の時間と予定。

 走り書きのようなメッセージ。

<――― 一緒にいてみる?>


 見つけた。

 回った。

 ホシイモノ。


 今、ようやく、手をかけた。

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