最強の服飾屋

「マスター、マスターは居ますかー?」

「マスターなら素材が足りないとか言ってダンジョンに行ってるわよ?」

女性店員に返事をしたのは服飾屋ハンターヘッズのオーナー、アリシア・ルーニルである。

「ところで何の用?」

「アリシア様、ギルド長がお見えになってます。」

「今は外出中と伝えといて。」

「はい、分かりました。」


店はダンジョン都市に統合される時に改名され、ダンジョンにわりかし近い一等地に移転した過去がある。

一等地はダンジョンに程よく近くなおかつダンジョン近くに構える警備団によってモンスターが流出した際の防衛も行っていてある程度の安全も確保された最高の立地である。

ちなみにダンジョンの側は特等地と呼ばれ、イレギュラーでモンスターが溢れ出る危険を孕むため腕自慢が露天をやってることが多いぐらいである。

ちなみにハンターヘッズは今の店員の大半が魔法を使えるか狩人であるため、特等地店を構えることもできるのだが一般の客にも人気のお店であるためあえて安全性のあるところに店を構えている。

ダンジョン都市には都市の管理機構としてギルドが存在しているが、この町の成り立ちからして実権だけならハンターヘッズのマスターの方が上であり、どうしてもという時はギルド長が相談に来る。

今回のように。

どうしてこういう形になったのかというと、この服飾屋の創設者の後継がダンジョン都市の設立の根幹に関わっておりそれにより長に押す声も多数だったが、当人は狩りに行けなくなるのを嫌って管理を委譲したという経緯があり、そしてその形式が今でも引き継がれている。

この一族は代々狩りをして服飾を作ることが好きなので才能はともかく、政治やらダンジョン攻略やらにはあまり興味を示さない。

ちなみに当代の年齢はまだ20であるが、その両親は息子に引き継いでとうとう旅に出てしまう始末であった。

先代はダンジョンに行く時にはパーティを組むことがあり、その過程で今の奥さんを手に入れたのは有名な話だがその妻は魔術の才能が高かったせいもあり、当代はハンターだけでなくマジシャンメイジとしても高い才能を有し、学区の魔法科コースを主席卒業している。

そのくせ狩りの技量も高く魔法を使わずとも一人で大物を捕る始末であるため、うっかりするとダンジョン深くにソロで潜ってしまっている問題児でもある。


「いやあ、大漁大漁。」

車輪の付いた荷台を引きながらマスターであるタクト・ルーベルトがご機嫌で帰ってくる。その服装は結構ボロボロであったが。

「マスター、ギルド長からお手紙が直接届いています。」

アリシア・ルーニルはギルド長から預かっていた封筒を渡す。

タクトはそれを見るなり、紙にペンを走らせた。

そして、店内の一人を呼び出しお使いを頼んだ。

「ギルド長はなんと?」

タクトはアリシアに手紙を見せた。そこには「メタルワームが大漁発生してて被害がでてるので対処のために討伐隊にご助力を願いたい。」と書いてあった。

メタルワームはその硬い装甲で物理的なダメージが有効ではない上に、小型で素早いという難敵である。

但し基本数が多くないため普通のパーティでも対処は可能だが、逆に小型であるため素材の採れる量が少なく、取引額も相当な値が張る。

但し大漁発生した場合、その性質上駆除するのに手間がかかり魔法剣士等の魔法が使えて近接もできる人材が多く必須になるためハンターメイジと呼ばれるタクトの力も必要になるのであった。

但し、タクトが取りに行った素材がまさにそれで、大漁に素材を確保できたのだから上機嫌で帰ってきた訳である。

アリシアが振り向くと

「大漁発生だったのか、どおりでいつもよりたくさん捕れたわけだ。死ぬかとも思ったけど。」

「あまり無茶はしないでください。」

タクトの言葉に合わせるようにアリシアは言葉を紡いだ。

「まあ、欲しいものは手に入ったし工房に籠るから、緊急以外はいつもどおりで。」

「はい、分かりました。」

こうして、いつもの日常はまた過ぎていく。


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