月がきれいですね ~editorial for Clinical critical essay~
10月も半ばに入りました。思ったよりも秋はすぐ近くにいるようです。そして、きっとすぐに冬が訪れるのでしょう。季節の境界を見定めるのは困難ですけど、それでも僕たちは季節を感じることができる。不思議ですね。
さて、10月と言えば中秋の名月を思い浮かべる方も多いでしょうか。中秋の名月とは旧暦で8月15日の夜月のことを指しますが、今年は10月4日だったそうです。毎年、この時期は秋雨前線などの影響で、月夜を楽しめないことも多いと聞きますけど、今年は広い地域で天気に恵まれたようで、夜空に浮かぶ大きな月を眺めながら、秋の訪れを感じた人も多いのではないでしょうか。
「月がきれいですね」
“I love you”をそう訳したのは夏目漱石だそうです。英語教師をしていた漱石は、学生が “I love you” を「我君を愛す」と訳したのを見て、「日本人はそんなことを言わない、月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったそうです。この話の真偽のほどは定かではなく、典拠不明の逸話である可能性も指摘されているようですが、どうでしょうか。どことなく形容しがたい情緒を感じてしまうのは僕だけでしょうか。
月がきれい……こんな単純な主語と述語の組み合わせの中に、僕らは様々な記憶と物語と、そして想いを感じることができる。
『詩や小説を書かずとも、言葉を使う限りぼくたちは避けがたくメタファーの中に生きている』
これは、僕が大好きな哲学者、下西風澄さんの言葉ですけど、伝えたい思い、その願いの強さが駆動する言語の創造性、すなわち生成的な言語には読み手の心を動かす力が宿っています。これをメタファーと言っていいのか分かりませんが、言葉を作り出すとは、自身の内なる他者との共同作業と言えるかもしれません。どのような人に想い届けたいのか、その宛先となる他者の想定の仕方次第で、届くメッセージの範囲が変わる、そんな気がします。
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