心に残る系な世界を垣間見た僕らなら

 心を動かされる経験には、それにちょうどよいくらいの心的な距離があるんだ。対象に近すぎても遠すぎてもいけない。それは、感情移入の度合いを図る距離とも言えるかもしれない。


 対象に触れて心を動かされることによって、僕たちはその対象の価値を見知る。だから、心を動かされるのに先だってあらかじめ対象の価値を把握しているわけじゃない。価値は確かに対象に宿る性質だけど、でもそれは物理的性質と異なるでしょう?


――価値は常に既にあらかじめ存在するわけではなく、その都度、認識されるもの。


 何かについて心を動かし、それを感じる能力は、単に色や形を認識する能力とは違うんだ。それはアイステーシス、つまりは感性と呼ばれるもの。


 誰かに見せたい景色があるというのはとても素敵なことだと思う。心動かされるような美的な価値判断は自分の情動だけじゃなくて、他の誰かの共感を求めるけど、そんな情動と記憶を共有できることができるのなら、それはとても幸せなことに違いない。


 そういえば、記憶ってさ、僕の中に宿っているんじゃなくて、どちらかというと、世界の側にあるよね。茜色の空とか、心地よい波の音にふっと記憶が再生されるから、やっぱり記憶は世界の側にあると思うんだ。

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