物語の二次創作性
[物語に配置された方程式]
小説や映像作品も、コンテンツそのものというよりは、その設定のイメージが大きかったりするので、文学的な何か、物語の本質的な何かという仕方ではあまり評価されない時代のように思える。
例えば、「この素晴らしい世界に祝福を!」というアニメーション作品がある。暁なつめによるライトノベルが原作だが、物語のコンテンツとしてはもうドタバタで、そこに何か奥深いメッセージのようなものを感じ取ることは難しい。しかし、キャラクター設定に目をむけると、かなり細かく作りこまれていて、それがこの作品の大きな魅力になっている。もともとはウェブ小説であったが、漫画化やアニメーション化もされており、2016年12月時点でシリーズ累計発行部数は300万部を超えているという。
このようなコンテンツの消費のなされ方は、メディアミックスと呼ばれるビジネスモデルの典型であり、まさに現代のエンターテインメントコンテンツにおける消費モデルである。これは物語そのものを提供するというスタイルではなく、物語を構築しているデータベースを提供するというスタイルなのだ。
こうしたスタイルを東浩紀は「動物化するポストモダン」という書籍で“データベース消費”と名付けている。データベース消費とは、物語そのものではなくその構成要素が消費の対象となるようなコンテンツの受容のされ方を指す。単純にコンテンツが消費されて、その本質のようなものが評価される時代から、コンテンツの表層をいったん解体し、コンテンツを構成していたデータベースにアクセスして、そこに含まれる様々な要素が評価対象となる。
「そこで求められているのは、旧来の物語的な迫力ではなく、世界観もメッセージもない、ただ、効率よく感情が動かされるための方程式である。(東浩紀 動物化するポストモダンp115)」
作品の評価は、作者がそこに込めたメッセージというよりも、作品の中に配置されたいくつかの要素と読み手の嗜好の相性によって判断されている。
シナリオライターのkeyが生み出す作品群はいわゆる「泣きゲー」ジャンルの草分け的存在だ。恋愛アドベンジャーに感動と泣きの要素を組み合わせ、その熱狂的ファンは「鍵っ子」とも言われている。Key作品にはもちろんメッセージ性が皆無というわけではないが、彼の作品群には「泣き」と「感動」を効率的に動かすための方程式がしっかり埋め込まれているように思う。
[データベース消費と二次創作]
コンテンツのデータベース消費という仕方を突き詰めて考えると、オリジナルと二次創作の境界が曖昧になって行く。どういうことか。
心奪われた作品をデータベース化し、そこから効率よく感情が動かされるための方程式を作り上げ、その方程式をベースに新たな作品を作り上げる。これが二次創作なのか、オリジナルなのか、その境界が曖昧だ、ということであり、それは自分で書いた小説やテクストの中にも見いだせる。
僕がこの小説投稿サイト「カクヨム」で公開した「アメのソラ」という小説は、テレビアアニメーション作品「プラスティック メモリーズ」に多大な影響をうけている。両者はおそらく全く異なる物語である。しかし、その背景にあるデータベースを多く共有している。
登場人物の設定では、ヒロインがいわゆる“ツンデレ”であり、そもそも“人ではない”。さらにヒロインには“限られた余命”が設定されている。物語序盤では二人の関係は“微妙”だが、後半になると“距離が縮む”。しかし、ラストで“永遠の別れ”という、いくつかの「タグ」を共有しているのだ。
小説がネットで書かれる時代、読みたい小説をどう探しているだろうか。ジャンルや作品のレビューなど、参考になる要素はあれど、それに加え、重要なのがタグだ。小説にとってタグという概念は何だろうか。少なくともウェブ小説以前の時代には存在しなかった概念であろう。しかし、これこそが小説のデータベース的消費を物語る。
作品における効率よく感情が動かされるための方程式。タグというのは、この方程式上に存在する『項』である。おそらく、大量消費されているウェブ小説において、作品を書く前に、あらかじめこの項、つまりタグの決定が(意識的であれ、無意識的であれ)なされているように思われる。
裏を返せばデータベースをより提供しやすい仕方で作られたコンテンツは消費されやすい、ということでもある。物語のオリジナリティやメッセージ性に今やそれほど大きな価値はない。これはつまり、最初から二次創作的な仕方で作品が評価されることを意味する。ラノベ界隈ではアンソロジー本も少なくない。メディアミックスでさえ、原作者による二次創作ともいえる。
二次創作というのは今やひとつの作品のあり方であり、著作権などの問題を抜きにすれば、オリジナルと等価な価値を帯びているのだ。
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