大学という場所で……

大学の研究室に入ったのは何年ぶりだろう。僕は母校の大学を卒業して以来、研究室とは縁がなかった。もともと生物学の研究がしたくて大学を受験したのだが、理学部分子生物学科はことごとく受からず。


わけあって高校3年生から高1の科目をやり始めた僕は、受験勉強というレールに完全に乗り遅れていた……。そんななか、奇跡的に僕を合格させた薬学部に進学することになった。だから僕は生物学者ではなく薬剤師をしている。


先日、関西の医療系大学にお声掛けいただき、薬剤師や薬学生を対象に薬の話をさせていただいた。講演開始前に、大学の研究室を案内していただいて、懐かしい記憶がよみがえった。


学生時代、僕は生体高分子化学という化学系の研究室に所属していた。まともに実験なんてやってなかったけれど、有機溶媒なのだろうか、実験室特有の匂いに包まれたその空間に学生時代の僕を見た気がした。


研究室ってこんな感じだった。茶褐色の試薬瓶が並び、試験官やフラスコ、ビーカーが並んでいて。小学校の時、なんだか憧れた理科室の隣にあった準備室のような……。


大学の講義室に入ったのも学生以来。そう、いわゆる階段教室。そこで僕は、薬物治療の妥当性、適切性評価に、クリアカットな判断基準は存在しないという話をした。結論というコトバがあるから僕たちは何か正しい答えがあると思っているのだけど、結論なんてないということを話した。人の人生に対してなにがしかを結論付けるような仕方で関わるなんて、やはりおこがましいと僕は思うんだ。その都度のおとしどころのみがあるだけ。確かに医療現場では一つの決断はしなくてはならない。でもそれは結論ではないんだということ。


画面上ではないコトバを届けられただろうか。アナログななにかを伝えることができただろうか。最後に「今日はとてもモヤモヤしましたが、なんだか少し楽になりました」とおっしゃってくれた方がいて、とても嬉しかった。


とても雰囲気の良い大学だった。僕もここでまた学生として勉強してみたいと、帰りの新幹線でそんなことを考えていた。

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