第2話 彼女の条件

 彼女の返事はイエス。

 けれど、条件付きだった。

「──いいよ。付き合おっか。ただし……」

 その言葉に続いたのは、少し風変わりな条件。

 提示された条件(?)は少し変わっていた。


 まずは3ヶ月。

 それは、試用期間のようなもの。

 3か月後に、どちらかが告白をしたら、相手の答え次第で恋人関係かどうかが決まる。

 どちらも告白をしなければ、二人の関係はもともと恋人ではなく友達だったことにできる。

 もし、周りに知れ渡ってしまっていた場合は、友達に戻ったことになる。

 それが、一番最初につきつけられた条件。


 友達以上恋人未満、それは二つ目の条件。

 一応、カップルとして付き合うけれど、少なくともこの3ヶ月、彼女は友達以上恋人未満の相手として僕と接する。

 だから、恋人未満ではしないようなことをするつもりはない。

 ちなみに、キスとかハグくらいなら雰囲気次第で問題ないらしい。


 まぁ、他にもいくつかあるが、特別気になった条件は、この二つだった。



 月曜日。

 いつものように、被っている講義で会う。

「あ、白石さん、おはよ」

「うん、おはよ」

 まだ講義が始まるまで5分近くあった。

 講義が始まるまでに、前回のノートを見返しておこうと、ノートを開く。

「……ねぇ、変じゃない?」

「え、どこが?」

 突然声をかけられて、少しだけドキッとした。

 どこが変なのだろうと自分でもノートをよく見てみるが、特に変なところは見つからない。

「……呼び方だよ」

 クスクスと笑ながらそういう彼女はどこか楽しそうだ。

 ……って、そうじゃない。呼び方って、なんの呼び方だろう?

「呼び方って……?」

「名前だよ、名前。これを機にさ、呼び方変えようよ」

 彼女の突然の提案に、頭がついていかない。

「どうして?」

 彼女は不意に窓の外に目を向けた。

「……私さ、友達に白石さんって呼ばれたくないんだよね」

 その声はどこか寂しそうだった。

「え、そうなの!?ごめん」

「あ、いいの。嫌いなわけじゃないから。ただね、距離を感じるから好きじゃないだけ」

 言われてみれば、確かに彼女と仲良くしている人たちは、ほとんどみんなファーストネームかあだ名で呼びあっていた気がする。

「でも、何て呼べばいいの?」

 呼び捨て……は偉そうかな。あだ名は馴れ馴れしすぎないかな……。考え出すときりがなかった。

 彼女は色々な呼ばれかたをしている。

 白山千夏という名前から、しろちゃんややまち、ちーちゃんやなっちゃんというあだ名や、どうしてそうなったのかが謎の、2号やももちゃん、つくもちゃんというあだ名もある。

「千夏でいいよ」

「あ、いきなり呼び捨て……。ハードル、高くない?」

 ファーストネームの呼び捨ては個人的にレベルが高く感じてしまった。特に、白山さんからいきなり千夏……は少しだけ抵抗がある。

「……まぁ、好きなように呼んでいいけど。自分のタイミングで好きに呼び方変えるといいよ」

「あ、はい」

 千夏ちゃん……は、なんか、子どもっぽいよな。どうしよ。

「私は、蓮くんって呼んでいい?」

「もちろん」

 頷くと、彼女は嬉しそうに笑った。

「ありがと」

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