俺が応募したラノベ、郵便事故で異世界転移したらしいんだけど？

「翻訳」の斜め上

　普通、｢翻訳｣という言葉の意味は、「言語Ａを言語Ｂに訳すこと」だと、誰しも思うだろう。

　そう思って、魚の象形文字のような、この謎の言語を入力したわけなんだが。

　謎の言葉の意味を知りたくて入力したわけなんだが。

　グルグール翻訳では、翻訳されるだけではなく、その先の対話（チャット）が続くようになっていた。

（なんだ？　このサービス……）

　だいぶ昔に、人工知能女子大生の「ぞんな」ちゃんという子が騒がれたことがある。まるで人間と会話しているかのように、ＡＩとチャットが出来た。アレをもっと高性能にした感じ……なのか？

　人工知能（？）は、「ノットウィッチ」と「ＫＰ」の、２人も居た。

ＫＰ：今、ノットウィッチ先生は自宅にいて、助手を待っている。

ノットウィッチ：「先生」は、よしてもらえないか？

ＫＰ：そう？　では、ノットウィッチ氏で。

ノットウィッチ：それでいい。しかしこの箱……なにか違和感を感じるな。

ＫＰ：では、目星（めぼし）ロールを。

（目星！　そんなところまで実装しているのか！）

　目星とは、クトゥルフＴＲＰＧのキャラクターが持つ、何か怪しい物がないかを調べる時に使用する技能だ。ダイスを振って（ロールして）、成功失敗を判定するもの。思わず、声も出てしまうというものだ。

ノットウィッチ：コロコロ（ダイスを転がし）……成功した。

ＫＰ：成功ね？　じゃぁ、ノットウィッチ氏の目の前にある、不必要な程に大きな箱。その箱が、上げ底になっていることに、先生は気付いた。その下から、本が『もう一冊』出てきた。

ノットウィッチ：なんと！　（驚）

Calc：目星？！

ノットウィッチ：ん、誰の声だ？　なんだ？　

ＫＰ：あー。Calcくんの探索は、ちょっと待っててもらえるかな？　ノットウィッチ氏の家に、突然別の人が出現したら、話がおかしくなるから。

Calc：え、えっと……。

ノットウィッチ：語学スキルで、解読を試みるぞ。先に出てきた方の本だ。コロコロ……成功。

ＫＰ：さすが先生。その本には、過去と未来の両方の出来事が記されていた。星と宇宙の魔物の歴史についても。

ノットウィッチ：なんと……！

ＫＰ：さて、ＳＡＮ値（正気度）の減少は、１Ｄ３でロールして。

ノットウィッチ：そんなに減るのか！

……

……

　俺は、唖然とした。

　人工知能同士で、どんどんシナリオが進んでるじゃないか。

　「過去と未来の両方の出来事」ってことは……ヤバいよそれ。

　ノットウィッチ（先生？）が解読しているその本、おそらく『カルナマゴスの遺言』 だよ。読むだけで、１０歳も年を取ってしまうという、恐ろしいアレ。

　ブルルルルル！

「うわぁ！」

　突然、スマホが振動した。ビックリして、折り畳みベッドから転げ落ちそうになった。

　ＳＮＳ『つぶやい太郎』のメッセージを受け取ったことを知らせる、プッシュ通知だった。画面の上部に、とある文字列が表示された。

宴夜（えんや）「Calc大先生。マルヤマ大賞が発表されたわけですが」

　グルグール翻訳の画面の、そのまた上に、重なって表示された、その文字列。

　俺は唐突に、現実に引き戻される。

　お腹の中に、苦くて酸っぱいものが広がるような感覚。

　俺は一旦、グルグール翻訳画面を閉じた。

（くっ、こいつ……！）