俺が応募したラノベ、郵便事故で異世界転移したらしいんだけど？

慢心がこじれたその挙句

　俺は、丸山大賞の発表サイトを２度見、３度見した。

　部屋のベッドに投げつけたタブレットを再起動。

　ブラウザの閲覧履歴（キャッシュ）データを削除して、発表サイトを再読み込みさせてみた。履歴のクリアで、表示が変わることも、稀にあるからだ。

　それでも表示されるのは、その前と同じ、他の人の受賞作ばかりだった。

（お、おかしいだろ。どうして俺のが載ってないの？）

　心が現実を受け止めきれずにいた。

　俺が書いて応募した『座椅子の偉大なる種族』は、流行りのクトゥルフモチーフも入れつつ、主人公になぜか好意を抱く可愛い邪神（女の子）も大量に出てくる、座椅子と邪神とのラブコメありの物語だ。ウケないはずがない。

　大学の授業も、タブレットとキーボードを使ってメモを取るふりをしつつ、ずっと設定構築とかに没頭していた。要は内職をしまくった。

　文章力は、確かに未熟かもしれない。けれど、このコンテストのジャンルは純文学じゃなくてラノベなんだ。面白ければそれでいい。そして俺のは、断然に面白い……はずだ。

　にもかかわらず、発表サイトに俺の作品は載っていなかった。

　自室をウロウロと歩き回りながら、思考を巡らせる。

　俺が面白いと思ったアマチュア小説は、程なくして何らかの賞を取り、商業デビューしていくのが常だった。その俺が、自作を面白いと思うんだ。賞に引っかからないわけがない。　

　陰謀か？　何かの陰謀なのか？

「ゆ、郵便事故にでも、遭ったんじゃないのか？」

　そんな声が、 思わず、俺の口をついて出た。

　例えば。

　俺がマルヤマ書店編集部へと送った応募原稿。

　それを、郵便配達のおっちゃんが、マルヤマ書店ではなく、一般家庭（丸山さん）に誤配達してしまったとか？

　あるいは、応募原稿が、手違いで配達されないまま、郵便局の地下倉庫に、いまだに眠ったままでいる、とか？

（いや、それはないな……）

　否定の塊が、頭の中を占拠する。部屋の中で立ち止まり、俺は腕を組んだ。

　現実には、そんな都合の良い事などあり得ないって、ちょっと考えれば分かる話だ。

　なぜなら、マルヤマ大賞への応募は、原稿用紙を郵送したのではなく、テキストデータをネットで提出したのだから。

　小説が書かれたテキストファイルを選択して、送信ボタンをポチッと。

　その一連の流れに、郵便局のおっちゃんは全く関与しない。

　では、通信の不具合か？

　何らかの、とんでもない出来事とかが原因で、応募原稿データがマルヤマ書店のサーバーに届かなかった、とか？

　でも、『投稿受け付けましたよ』的な内容の確認メールは俺の所に返ってきていた。受付番号も書いてあった。１５８３番。

「はぁ……」

　俺は息を吐き出して、腕組みを解いた。

　体の内側から、エネルギーが根こそぎ奪われたかのようにだるい。

　心は、現実を少しずつ受け止め始めていた。俺はそのまま、ベッドに突っ伏す。

（ちくしょう……）

　一体、どこがダメだったと言うんだろう？

　気づけば俺は、ご法度（はっと）な事をやってしまっていた。

　マルヤマ書店編集部に、「私の投稿、１５８３番は、そちらに届いているでしょうか？　届いているとしたら、どこがダメだったのでしょうか？」とメールを打ってしまっていたのだ。