Section.8

 白い髪と肌、紅い目が見えた。美しいけれども、虚弱そうな顔だ。


 鏡の中には、彼女の顔が映っていた。いや、正確には、彼女と全く同じ僕の顔が。


「私は部屋の中に、二人の人間がいると言いました。勝手に自分を男と判断し、私を女と断定したのはあなた。『男女』にこだわったのは、あなた」


 彼女は暗い声で語った。あぁ、そうだと、僕は頷く。そうだった。僕達には。


「私達には性別なんてない」


 でも、僕にはそれを認められなかったのだ。僕は男で、彼女は女。そうでなければならなかった。漫画から小説から映画から、僕はそう学んでいたからだ。


 この世には男と女がいる。僕と彼女のような人工的な無生体は存在しない。だから、僕は彼女を『女』と位置づけた。ならば、僕の方は『男』が適切だ。そうすれば、個人を識別するための名前を持っていなくても、僕達は僕達を性別でわけることができる。


 彼女は語ることなど何もないと言った。そして、私に興味を持つのかと驚いた。


 ソレも当然だ。だって、僕達は完全に同じ存在だったのだから。


 これは実験だ。


 室内には二人の人間と一本のナイフ。相手を刺殺した方が外に出られる。


 ただし、二名は同一個体だ。


 僕らは人工的に造られた、人間の複製品だった。今、あらゆる国家が、人間の代わりの兵士として、僕らの開発を進めている。だが、実用化までには試すべきことがたくさんあった。これもその一つだ。繰り返し、僕達を殺し合わせた場合、仲間意識は発生するか、人間への反発は、生存意欲はどの程度継続するか、精神的負荷はどれほどか。


 生き残った方は次の実験へ。死んだ方は廃棄。もしくは別個体に意識を継続させ、記憶の欠損具合や、生存のための学習能力の向上度を調べる。今回、僕は後者だった。


 この単純な実験で、僕は既に五百三十四回死んでいた。相手はずっと彼女だったかもしれないし、別人かもしれない。だが、そこに区別の意味はなかった。僕は僕達で私は私達だ。男女の差すらもらえなかった子供達。リサイクルを繰り返される実験体。


 今回、僕には多数の創作物が与えられた。情報を入力された僕が、このシンプルな状況下にどう打開策を見出すのか、彼らは期待したのだろう。だが、結果は失敗だ。僕は入力された情報のみを頼りに行動した。この状況を型に嵌めてしか動けなかった。そのせいで、僕は鏡一つを前に、完全な混乱状態に陥っている。


 やがて、僕は口を開いた。ねぇ、僕はどうすればいい? 


 自分の記憶すら、全消去しかけている欠陥品はどうすればいいんだ?

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