結末。

あさかん

第1章

約束

1話―――時系列①


 僕は小学2年生の男の子、名前は佐倉翔太さくらしょうた


 僕がみゃーと呼んでいる妹の美耶子みやこはまだ5歳。



 僕達に父親はいないけど、お母さんがいるから別に淋しくなんてないよ。


 でもね、たまーにお母さんが夜からお仕事行っちゃう日があるんだ。





 だから、今はちょっとだけ淋しい。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※



「お兄ちゃん、今日のからあげおいしいね」


「みゃーは本当にからあげが好きだなぁ。しょうがない、僕のを一個めぐんであげるよ」


「キャッキャッ。お兄ちゃん、だいすきー」


 みゃーは手をパチパチして喜んだ。


 挙句の果てには、わざわざ自分の足より高い椅子から飛び降りて、「めぐまれたー♪」の喜びダンスを披露する。


 まだ晩ご飯の途中なのに……


 みゃーはもう一人で椅子に登れるんだけど、甘えん坊だからまだ僕が手伝ってあげなくちゃいけない。


 本音を言うと、ちょっぴり面倒。


 でも、お母さんとの約束があるからみゃーをグズグズにさせちゃダメなんだ。




『ごめんね翔太、お母さん今日どうしても夜勤を断れなくて、今晩もお仕事行かなくちゃいけないの』



 ――――――――――――――――――


 お留守番をする時の5つのお約束



 ・家にお母さん以外の人が訪ねて来ても絶対に玄関を開けないこと


 ・火や刃物は絶対に使わないこと


 ・妹を絶対に泣かせないこと


 ・妹に絶対危ないことをさせないこと


 ・妹に怖い思いをさせないこと



『お母さんがいない時は、私の代わりにみゃーを守ってあげてね。約束だよ』


 ――――――――――――――――――



 お母さんは僕が約束を守ると、帰ってきた時にたくさん褒めてくれる。


 最初は、お母さんに褒められるのが嬉しくて一生懸命お約束を守ったり、しっかりみゃーの相手をしたりしてたんだ。


 でも、いつからだろう?約束とか関係なく、例えお母さんがいるときだってみゃーには特別優しくするようになった。


 だってみゃーがめそめそしてると僕も悲しいし、楽しそうに笑ってると僕も嬉しくなるからさ。



 この前、そんなことをお母さんに話すと、泣きながら喜んでいた。


 いつの間にか立派にお兄ちゃんとしての自覚が出来てたんだねって。



 結局いつもより時間はかかっちゃったけど、自分の好物だったからか、みゃーも綺麗に晩ご飯を平らげてくれて、使った食器もちゃんと水につけた。


 お風呂はお母さんがお仕事に行く前に3人で一緒に入っているから、もう寝る準備をしないとね。



「お兄ちゃん、お兄ちゃん、怪獣もっちが見たいなー」


 みゃーは舌足らずだった所為か”ウォッチ”が言えずずっと"もっち"と呼んでいる。


 お母さんはちょっと厳しくて、いつもは寝る前にあまりテレビを見させてくれないけれど、今日みたいな日は録画してあるアニメを見て良いことになってるんだ。


「仕方がないなぁ……じゃあ、キチンと歯磨きが出来たら一緒に見よう」


「わぁーい。今日はねー。ぴこぴこがでるやつが見たいー」


 仕方がないとか言っちゃったけど、実は僕も見たいんだよね。


 それに、そういう条件を出すとみゃーも張り切って歯磨きしてくれるし、アニメを見ながらいつの間にか寝ちゃってくれたら急に淋しくなって"めそめそ"にならずに済むもんね。



 お気に入りのイチゴ味を歯ブラシの上に出してあげると、みゃーは勢いよく口の中をシャコシャコし始めた。


 そのままだと洗面台に届かないので、小さな踏み台の上に乗っかっているみゃー。


 ぐちゅぐちゅべぇまでの素早い一連の流れに、お母さんならやり直しって言うところなんだろうけど、まぁ今日の所はヨシとしようかな。


 口のベタベタを綺麗にタオルで拭いてあげて、ようやく自分の歯磨きができるって思った時には、もうテレビのある部屋に駆け出していた。


 僕も急いで申し訳程度の歯磨きを終わらせ、テレビの前に畳んであった2つの布団を広げ、ピコピコの回ってどれだったかなぁ?とリモコンを操作する。



 オープニングが流れ始めた時にはみゃーはもうテレビにくぎ付け。


 冒頭の映像からするに多分ピコピコの回じゃないような気がするけど、夢中になってるみゃーは見終わるまでそのことを忘れているはず。


 連続再生にしてるから、そのうちピコピコも出るよ、きっと。


 さて、僕も布団の上で見ようかな?って思った矢先……




 プルルルルル……プルルルルル……プルルルルル……




 電話が鳴った。



 みゃーはアニメに夢中なので振り向きもしない。


 誰だろうって思いながら、僕は受話器を取る。



「……もしもし、佐倉ですが。あっ、お母さん?うん……うん。えっ?……うん……わかった」



 ガチャリ。



 受話器を置いて、みゃーを見る。


 お母さんから電話で呼ばれて、少しだけ家の外に出なくちゃいけないんだけど、それをみゃーに言うと不安がらせるかもしれない。


 かといって、外は真っ暗だからみゃーを連れていくにはしのびない。



 多分大丈夫だ。


 みゃーがアニメにくぎ付けになっている間に行って帰ってこれるはず。



 僕はちょっとくらいだからいいかなとも思ったけど、施錠の為に家のカギを持ってコソコソと玄関から外に出た。


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