第7話 ルーとアイリス

むかしむかし、海の向こうの寒い国に、

ルーとアイリスという兄妹が住んでいました。

ふたりは貧乏で、町の小さな工場で、朝から夜中まで働いていました。


ある満月の夜、二人はいつものように親方から銅貨を2枚もらって

帰路につきました。

「ルー兄さん、これで明日もパンが買えるね」

「ああ、ぼくがいつものように、朝一番に町に行って、焼きたてのパンを買ってくるよ。

アイリスはいつものように、井戸で飲み水を汲んで待っておいでよ」

「ええ。わかったわ」


次の日の朝、ルーはパンを買いに出かけました。

だけど、1枚の銅貨で1個のパンを買ってきて、

もう1枚の銅貨は、おもてのねずの木の下に埋めました。

ねずの木にとまったカラスがルーに向かってこう鳴きました。

「ルーぼうや、ルーぼうや、どうして銅貨を埋めるんだい」

ルーはカラスに向かって言いました。

「妹をお嫁にやるためさ。銅貨が100枚たまったら、すてきな花嫁衣裳を買ってやるのさ」


ルーが帰ってくると、アイリスは飲み水の準備をして待っていました。

「おかえりなさい。ルー兄さん。あら、パンはひとつしかなかったの?」

「おなかがすいて、帰り道にひとつ食べちまったのさ。

ほら、もう1個はお前の分だよ」

「あらあら、ルー兄さんたら。しかたないわね」


そうしてルーはほとんど何も食べず働き続けました。

そしてねずの木の下に100枚目の銅貨を埋めたとき、

ルーはとうとう倒れてしまいました。


ねずの木のカラスが倒れて動かなくなったルーに向かってこう鳴きました。

「ルーぼうや、ルーぼうや、せっかく100枚の銅貨をためたのに、妹の花嫁姿を見れない、かわいそうなルーぼうや」

ねずの木に住む妖精は、ルーを哀れに思って、

ルーのなきがらを、空のいっとう光る星にしました。


ルーがいなくなってから、アイリスは毎日毎日なきました。

そして、おもてのねずの木に抱きついてこう言いました。

「ねずの木の妖精さん。ルー兄さんはどこへ行ったの。

わたしもルー兄さんのところへ連れて行って」


ねずの木のカラスはアイリスに向かってこう鳴きました。

「ルーぼうや、ルーぼうや、せっかく100枚の銅貨をためたのに、妹の花嫁姿を見れない、かわいそうなルーぼうや」

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