第2話 水分

薄闇の中、僕は目を覚ました。

喉が渇いた。

僕は布団からずるりと抜け出し、壁を伝って台所へと向かった。

動悸が激しく、足元がおぼつかない。


「しばらく水分を控えてください」

先日、手足のむくみがひどくて病院に行ったとき、医者は僕にこう言った。

僕は水分の代謝が悪い体質であり、また、水を飲む量が多いため、

体内に水が滞ってしまいやすいそうだ。


しかし、このところの暑さで喉の渇きは増し、

水分を控えるどころかどんどん摂取量が増えているようなありさまなのである。

今夜も無性に喉が渇く。水が飲みたい。

僕はふらふらと台所にたどりつき、マグカップに1杯、ミントティーをいれた。

「カフェインが多いものをあまり飲んではいけませんよ」

医者の言葉がぼんやりと浮かぶ。

「冷たい飲み物も控えてください」

僕は熱いミントティーが入ったカップを見つめる。

「冷たい飲み物も控えてください」

「冷たい飲み物も控えてください」

「冷たい飲み物も控えてください」

「でも、」

と、僕は思った。

「この暑いのに、熱い飲み物なんて、飲めやしないよ」


僕は冷凍庫から氷取り出し、次々とカップに入れた。

キューブの氷が山のように積み上げられたミントティーのカップを持ち上げ、

僕はそれをごくごくと飲み干す。

僕はカップをそっとテーブルに置く。

むくんで肥大した指は、もはやカップの取っ手をつまむことも不可能だ。

僕はまた壁をつたってベッドに戻り始める。

歩くたびにぺしゃりぺしゃりと音がする。

茹だりそうな暑さなのに、汗は相変わらず1滴も出やしない。

体中から水が巡る音が聞こえる。

意識が朦朧としてきた。


「人間の体内の水分量は、体重の70%だというけれど、」

僕は、脳しょうでふやけていく脳でこう思った。

「そんなんじゃ、僕には全然足りないんだ。

次に生まれ変わったら、くらげになれるといいな」


そして僕は、彼女のこと、家族のこと、人間だったころの僕のことを思って、目を閉じた。

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