終末の白い部屋

ゆとり

第1話 山のお祭り

初めて連れてきてもらった山のお祭りは、まるで夢の中のようだった。

いつもは人気がなく、しんと静かな神社への山道が、

提灯でぼうっと明るく照らされ、今まで村で見たことも無いくらいの大勢の人が居た。

僕がきらきらと光を反射する氷中花に見とれている間に、

いつのまにか一緒に来ていた母さんが居なくなっていた。

僕は、さっき母さんが「虫歯になるから」と言って

りんご飴を買ってくれなかったことに腹を立てていたので、

このまま一人で遠くのほうまで行っちゃおうと考えた。

きっと母さんは、僕が居なくなって、心配してるだろう。

りんご飴を買わなかったことを後悔するかもしれない。

いいきみだ。

僕は、一人でお祭りを巡った。

色とりどりのひよこが居たり、ヒーローのお面をかぶった子がいたり、

ひょっとこが踊っていたり、はじめて見るものばかりだった。

だけど、一人で見るお祭りは、あまり楽しくなかった。

笑い声も、賑やかなお囃子も、まるで僕を避けて通りすぎていくような感覚だった。

そして、いつの間にかお祭りは終わりの時間に近づき、屋台は店を畳み始めていた。

山道の提灯がひとつ、またひとつと消えていく。

僕は焦って母さんを探す。

どこにもいない。

賑やかだった人の声も、いつしかぱったりと途絶えていた。

あたりは暗闇だった。

僕は、明かりを求めて、わずかに提灯の灯りの残る山の上の神社へ走った。

神社の灯りの前方に、うっすらと人影が見えた。

母さんだ。

僕はその影に向かってめいっぱい走った。

だけど、人影に見えたそれは、きつねの像だった。

僕は、きつねの像に寄りかかるように座り込んだ。

「僕は母さんに捨てられたのかな」

涙がとめどなく流れる。

ぜえぜえと息切れが止まらない。

心臓がバクバクと破裂しそうだ。

真夏なのに、とても寒い。

「ごめんなさい。もうりんご飴も何もいらないから、帰って来て。」

僕は寂しくて、泣き疲れて眠ってしまうまで、泣き続けた。

眠る直前、僕は母さんの声を聞いた気がした。


祭りの翌日、一人の身寄りのない老人が、

神社で死んでいるのが発見された。

老人は、先月妻を亡くしてから、痴呆が悪化していた。

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