ビル。
弓弦
ある日、
これは。
なんという事もない。
ただの一日での事だ。
少し、長いだけで。
その日、僕は休日ということに甘えて昼下がりまで惰眠を貪り。大学のレポートの期日が頭によぎるのを「今日は休日」という名目で無視した。
「ま、メシでも食うか。」
自室から出ると、やや気だるい空気が漂う。
エアコンの効いた部屋から出るとこうなのだけど、夏場にはよくある話だ。
まさか、廊下にエアコンをつけている家庭なんて、そうそう無いだろう。
僕は階段を降りつつ、声を。
「ねえ?ご飯、なんかある?」
声をかけてみたが、返事はない。
そうか、そういえば両親共に、町内会だかなんだかで食事会に行っていて、帰ってくるのは夜になる、とか言っていたな。
仕方ない。冷蔵庫を漁るか。
?
そういえば、妹の声もない。
日曜日ともなれば、「女子高生」は忙しいのだろう。
リビングに。
そして・・・
「何もねー・・・。」
希望に反して、冷蔵庫には食材はあれど、「料理」はなかった。ついでに言えば、ご飯も。
レトルトのカレーと、ご飯でもイイやと思ってはいたのだが・・
大前提が覆された。
いよいよ、こうなれば街に出て外食か。財布が心もとないが・・・ ん?
テーブルに「お昼代」とメモと、紙幣が一枚。
最上級の紙幣ではないが、豪華な昼食にするか、質素にして小遣いにするか・・・
まあ、その辺は臨機応変だ。
僕は、簡単に着替えて、玄関をくぐる。
ねぇ・・ ああ。 知ってる? らしいね? でしょ?
駅から出ると、若い子達が何か噂話しだろうか?
イキナリ尋ねるとナンパと間違われる・・・というか、そんな度胸はない。
女子高生らしいグループをすれ違いざまに、見るとはなしに。
繁華街に出ると、何やらパトカーやら、何やら・・・
何かあったのだろうか?とりあえず、目の前の交差点を越えて、向こうの通りに行こうとした時。
視界の端にあった、ビルから。
誰かが
飛び降りたのが見えた。
「え?」
ただ、一瞬のコトだった。
見間違い、だろう。
なにせ、その「飛び降り」は、パトカー連中の居るあたりにあるビル。
つまり、パトカー目掛けて、と言ってもいい。
だったら、警察はそんなものを見過ごすハズが無い。
そうだ。
気の迷い。
気の迷い?
おかしいな?なんで僕だけ?
横断歩道を渡り終えようとする直前まで、そのパトカーのあたりを見ながら。
でも。
やっぱり、何の動きもない。飛び降りなんて、目の前でされたら、どんな警官だって動くだろうに。
気のせいだ。
僕はそう決めつけて、目当てのファストフード店に眼を向けようとした途端。
血まみれの「誰か」が、警官達を気にもせず、もう一度。
ビルに入って・・・
もう。
眼が離せなかった。
声も出なくて
ただ・・・ぼんやりとその方向を。
プッーー!!
クラクションでやっと自分が道路の途中で立ち止まっていたのかを気付かされて
歩道まで、のろのろと歩いて
その瞬間。
ぐしゅ!
ハッキリと聞こえた音。
何かが割れる・・・いや、砕かれる?
壊れた機械人形のような そんな仕草でもう一度
警官達がいる。パトカー。人だかり。ビル。
そして。
その人だかりが無かったかのように、血塗れの「人」がビルに入って行く。
もう、ワケがわからない。
もう一回・・・・
今度は、もう・・・首が折れ曲がり、顔の判別すら出来ないかもしれない「人」がビルからもう一度
もう、食欲も失せて、家に帰って、そうだレポートもある。ゲームでもいい。とにかく、今見た事は、もうナシだ。
僕は心の中で叫んで、踵を返し・・・
交差点で「人」と、遭遇してしまった・・・けれど、気づかない振りをして、その場を去った。
背後から。
「見てた、よね?」
と、聞こえたかも知れない。
家に帰り、自室にこもる。買い置きのおやつで空腹を凌ぐと、両親が帰ってきて
「ご飯はたべたの?」と声がかかる。
「ああ!」とだけ、僕は応える。
結局、ゲームで気を紛らわしていると
ノックの音が。
「んだよ、今忙しいんだよ。」
妹だろう。
きぃ
ドアが開く。
そして、肩にもたれかかるようにして
なんだか生臭い空気と、べちゃり、とした感触と 。 耳元の 「声」
みてたんでしょう? どうして こたえて くれなかったの ? ねえ? おにいちゃん?
ビル。 弓弦 @isle-of-islay
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