第07話「UNNECESSARY MURDER」
空気の流れる音が聞こえる。
息苦しい。
僕は口の周りを覆っている透明のカバーをむしり取り、体を起こそうとした。
透明のカバーは取り外せたが、体はベルトで固定してあって起き上がれない。
周囲を見回した僕は、自分の部屋のベッドの上に横になっていることに気付いた。
「おお、
窓際に立っていたジェラルドが、すぐに床を蹴って漂ってくる。
僕は固定用のベルトを外して、ベッドの上に体を起こした。
別にこのベルトは僕を拘束していたわけではない。無重力状態の船内では、ベッドに落ち着いて眠ることはできないため、体をベルトで固定して眠るのが普通なのだ。
部屋の中は明るく照らされ、気温も快適な温度に戻って居る。
僕は少し痛む頭に手を添えて一度大きく深呼吸をすると、顔を上げた。
「……ええ、大丈夫です、ジェラルドさん」
ジェラルドは笑って手を差し出し、僕らは固い握手を交わした。
休んでいるようにとは言われたが、特に体に不調もない僕はジェラルドと共に部屋を出る。
廊下の証明は落ち、船内の時間はすでに深夜の設定であることが分かった。
「宗也。気付いたか」
ラウンジで僕の外してきたパーツをマニュアルの図と見比べていたドンソクが、僕を見て立ち上がる。
僕はジェラルドと共にソファに腰を下ろして、肩をすくめて見せた。
「残念ながらピンピンしてるよ」
「……それは残念だ」
少し口の端をゆがめて笑顔らしきものを見せたドンソクは、チェックを入れていたマニュアルを閉じて、背もたれに深く背中をつける。
疲れた様子で目頭を押さえる彼を見て、僕は宇宙空間から自分が持ち帰ったパーツを何気なく持ち上げた。
先ほども見たはずだが、まるで別物のように見える。
綺麗なものだ。と、僕は思った。
傷や焦げ付き、汚れなどもなく、一見したところ故障したパーツにはとても見えない。
しかし、確かに僕は……いや、僕たちは、こいつのせいで死にかけたのだ。
「……不思議と、故障しているようには見えなくてな」
複雑な表情でそれを見ていた僕に、目頭を押さえたままのドンソクが独り言のように話しかける。
心の中を見透かされたようなその言葉に、僕は慌ててパーツを磁石の受け皿に戻した。
「素人が見ても分からんこともあるじゃろ」
「……うん。それに故障してなかったとしたら、さっきの騒ぎはなんだったって言うんだよ?」
ジェラルドと僕にそう言われて、ドンソクは体を起こす。
じっと僕を見つめた後、彼は大きくため息をついた。
「わからないのだ。情報が少なすぎる」
彼の言葉に、僕もジェラルドも肩の力を抜く。
冗談にも聞こえる彼の言葉に緩みかけたラウンジの空気は、だが、すぐにまた重苦しいものになった。
「……しかし、スペースシップの構造を良く知っているものが居たとして、偽の電源喪失が計画のうちだとすれば、宗也は先刻故意に殺されかけたことになるのではないか? ……パイロットを殺したのかもしれない犯人にな……」
ドンソクが顔を上げ、廊下の向こうを見つめる。
その視線が向かう先には、美しいブロンドが揺れていた。
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